人を睨んでしまう女性

道ですれ違う人、コンビニの前に立っている人、駅のホームで向かい合わせになる人…

別に何か恨みがあるわけではなく、嫌なことをされているわけでもないのになぜか睨んで相手に不快な思いをさせてしまう。

赤の他人に出やすい症状ではありますが、職場の同僚や知り合いと向き合って話すときに睨んでしまう人もいます。

人を睨んでしまう自己視線恐怖症の実態

無意識に人を睨んでしまう症状は、視線恐怖症の一種である自己視線恐怖症に該当します。

自己視線恐怖とは,特定の対人状況において自己の視線が異様な鋭さ,ないしは醜さを発し,それゆえに全面する他者を傷つけ不快にすると信じ悩む病態であり,鋭すぎる,きつすぎる,いやらしいなど自分の視線に対する悪しきイメージを抱き,その視線が他者に悪しき影響を与えてしまうことへの恐怖感を訴えるものである。そのため他者がなんらかの反応をしているという確信を抱きやすいという点で関係妄想性を帯びているのも特徴である。

引用元:自我漏洩体験の概念と構造に関する研究、2010、広島大学大学院教育学研究科紀要

実際にご相談いただく方はたいてい以下のような話をされます。

「相手の目を見ようとするとどうしても睨んでしまうんです…だから、できるだけ目を合わさないようにしてるんですけど、ちゃんと目を見て話さないと失礼じゃないですか?どうすれば睨まずに目を合わせられるようになるのでしょうか?」

人を睨んでしまう、不快な思いをさせてしまうと恐れるあまり、人とのかかわりを避けるようになるケースが多いです。

強迫観念のような感覚になっていますので、他者視線恐怖症正視恐怖症に比べて症状が重く、脇見恐怖症に該当する症状もあります。

実際に睨んでいないときでも睨んでいる感覚になる

最初は無自覚に睨んでしまうことがあって「睨んでくる」と言われたり、目を逸らされたりする。

その時点では実際に睨んでしまっているわけですが、「睨んでいるのではないか」と思い始めると、睨んでいないときまで睨んでいるような感覚になっていきます。

相手の反応が少し悪いように感じたら「自分が睨んだせいだ」と結び付け、睨んではいけないという思いが強化されていく。

常に人を睨んで不快な思いをさせている感覚になるため、自己嫌悪に陥ったり罪悪感を抱えたりして、人を見ることができなくなります。

また、意識することで緊張しやすい状態になり、結果として目つきが鋭く睨んだ感じになってしまうことも少なくありません。

なぜ人を睨んでしまうのか?

自分の中にある攻撃性の抑圧

普段から良い人であろうとするあまり、自分の中にある怒りや嫌悪などの感情を抑圧。

周りに合わせてばかりで我慢をさせられていることへの怒りや屈辱感が自覚できないまま蓄積されています。

自己臭・自己視線恐怖の特徴を,現実の臭いや視線に対する他者反応を冷静に判断するための主体性消失,証拠もないところでの他者行動の悪意的解読の現象にあるとし,これは本人の”他者に対する強い敵意感”が顕在化したもので,自己主体性・他者との相互信頼感が強く歪んだ状態であるとしている。

引用元:青年期における対人恐怖心性と自己関係づけの関連、2009、信州大学人文学部

本当は自分の中にあるはずの他者への攻撃性をないものとしているため、それが他人に映し出される現象が起こっているのです。

他人が自分に対して攻撃的な態度を取っていると思うから恐怖を感じて意識を向けざるを得なくなる。

どれだけ見ないようにしようと頑張っても、見ずにいられなくなるのは当然だと言えます。

他者への警戒心の強さ

他者への過剰な警戒心が睨むことにつながっている可能性があります。

相手に何かされるのではないかと思うと気が休まらない。まるで一人だけ敵地にいるかのような感覚になっている。

周りの人が自分のことを笑っている、変に思っているんじゃないかと思うと不安で仕方がない。

常に自分を守らないといけない感覚が生まれ、緊張状態になることで顔がこわばり目つきが鋭くなっています。

自分としては普通に相手を見ているはずが、緊張状態の鋭い目つきで見ているから相手は睨まれたと思うのです。

家族や親友等、安心できる相手に対しては症状が出ないことを考えても警戒心が影響していることがわかります。

無意識に人を睨んでしまう状態を改善するために

感情の抑圧に気付く

人を睨んでしまう原因として感情の抑圧があるので、まずは自分が感情を抑え込んでいる事実を認識することが必要です。

感情の抑圧は大人になって急に始まるものではなく、幼少期の親子関係や学生時代(とくに小中学校くらい)の経験から習慣化されています。

  • 親が感情を受け止めてくれず抑え込むしかなかった
  • 家の事情を考えたとき感情を抑えて自分が我慢するしかなかった
  • いじめに遭って学校生活を乗り切るために感情を抑圧するしかなかった

きっかけは人によって違いますが、感情を抑圧することで過去の大変な時期を乗り切っていたのは間違いありません。

当時の自分にとっては必要なものであったため、今も自分にとって必要なこととして感情を抑圧し続けているわけです。

カウンセリングでは、感情を抑え込むことが自分にとってつらいものであること、今の自分にとって感情の抑圧が必要ないことを認識できるような働きかけをおこないます。

適度な感情表現ができるようにする

人を睨むような目つきになるのは感情が漏れ出している状態であるため、感情を自由に表現できればできるほど改善に向かいます。

自分の中にある感情に目を向けて言葉にする習慣を持ちましょう。

人に話すことができればいいですが、難しければ日記に書く形でも構いません。

とくに睨む目つきに影響しやすい不安や恐怖、不信感、怒り等のネガティブな感情を中心に焦点を当ててみてください。

ネガティブな感情を言葉にして吐き出すことができれば、ポジティブな感情が入ってきやすくなり、バランスが取れて気持ちが安定していきます。

穏やかな気持ちでいられたら人を睨むような目つきになることはありませんよね。

今まで抑圧し続けてきたことで感情を上手く言葉にできない、感情を出すことに抵抗があるといった場合はカウンセリングでサポートしております。

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