脇見恐怖症は視線恐怖症の一種であり、自分が脇見をして他人に迷惑を掛けたり不快な思いをさせてしまうことに不安や恐怖を感じる症状です。
「見たくないのに脇見をしてしまう」という症状は理解されづらく、誰かに相談しても「見たくないなら見なければいいじゃん」と一蹴されたり、病院でも妄想として扱われたりすることもあるようです。
基本的には人に対して起こるものですが、視界に入る物に対して起こることもよくあります。物の場合は迷惑を掛けるどうこうはありませんが、読書や勉強など自分がやろうとしていることに集中できないことに苦しみます。
その場しのぎ的な対策としてよくされているのが、眼鏡をかける、帽子をかぶる、あと女性の場合は髪の毛で視界をさえぎるというのもありますね。
脇見恐怖症は以下のような場面で症状が出ることが多いです。
- 電車で座ったとき隣の席の人に対して脇見をしてしまう
- 車を運転しているとき助手席の人に対して脇見をしてしまう
- 教室で黒板を見るときに他の席の子に対して脇見をしてしまう
- 外食をしたとき視界に入った人に対して脇見をしてしまう
- 2人以上の人と向かい合って話すとき会話をしていない人に対して脇見をしてしまう
- 道を歩いているときすれ違う人に対して脇見をしてしまう
- 好きなアーティストのライブに行っても周りの人に対して脇見をしてしまう
- 家族と一緒にテレビを観るとき隣に座っている家族に対して脇見をしてしまう
人間の視界は180~200°くらいと言われていますので、他人を視界に入れてしまうことは誰にでもあります。例えば、電車でうつむいてスマホをいじっていたとしても視界には他人が入っていますから脇見をしようと思えばできるのです。
脇見恐怖症でない人はとくに視界に人が入ろうが入るまいが気にしないため、脇見をするかしないか、それによって他人に迷惑を掛けるか等といったことは考えません。
しかし、脇見恐怖症で悩んでいると視界に入った人がどうしても気になるため意識を向けてしまう。見たくないのに脇見をしてしまうことになるから苦しむのです。
脇見恐怖症を発症する原因
思春期に差し掛かり勉強や人間関係でつまづいたりしたときに発症しやすく、受験があるのに勉強に集中できないことから余計に焦ることとなり悪化させていくケースのご相談が多いです。
親に言われるがまま何も考えずにきて、勉強が思い通りに進まなくなる、女子と話したいのに話せないといった壁にぶち当たったとき、自分で解決するために目の前の問題と向き合わないといけない。でも、今まで自分で考えてこなかったからどうしていいかわからない、目の前の問題から目をそらしたい。この心理が脇見を誘発しているのではないかと推測しています。
実際に自発的に目の前の問題を解決できるようになれば脇見恐怖症が改善するという原理からも裏付けできていると感じています。
自分で考えて目の前の問題を解決してこなかったから自信がない。自信がないから他人の評価がどうしても気になってしまうんですよね。
脇見恐怖症を発症するキッカケとしては、「なんか見てくる」「見ないで」等と誰かに言われたケースが多いです。
なぜ他人が視界に入ると気になって脇見をしてしまうのか?
「他人が自分をどう見ているか」という他人からの評価への依存があります。
相手に嫌われたくない気持ちが強いから相手にどう思われているかが気になって脇見をしてしまう。脇見をすると相手に嫌がられるのは頭ではわかっているけど気になって仕方がないからどうしてもまた見てしまう。
自信がないから他人の反応にビクビク、オドオドしている状態なんですよね。
脇見恐怖症で悩んでいる人は、親に言われるがまま自分で考えて行動していなかったり、自発的に何かをやる習慣がなかったりします。
人は自発的に何かを成し遂げることによって「自分でできた」という実感を持てるため、自信を付けることができます。
ただただ言われるがまま、もしくはやらなきゃいけないからと何かをこなしてきたとしてもそれは自信にはなりません。
自分で考えて実行すること、結果を出すためにどうすればいいかを考えながら試行錯誤し続けること、自分の感情を上手くコントロールすること等、自分のことを自分でコントロールできる感覚がないから視線もコントロールできず見てしまうのです。
そして、人を見ることへの意識が過剰になることによって見てはいけないと思うから余計に気になって見てしまい、脇見をする習慣が根付いてしまうのです。
自分が本当にどうしたいのか、どうなりたいのかを見失っていることが、脇見への執着を生み出しているとも言えますね。
周囲の人の陰口、咳払い、舌打ち、にらみは事実なのか?
脇見恐怖症は確信型の対人恐怖症ですから、確証バイアスが影響しています。
確証バイアスは社会心理学の用語で思い込みの強化を意味しており、自分が思い込んだ内容を裏付ける情報ばかりに目を向け、逆に否定する情報はスルー、どんどん自分の思い込みを確信へと変えていくものです。
誰かから「なんか見てきて気持ち悪い」と自分の方を向いて言われた。脇見をしたときにたまたま相手が咳払いをした。ネットで調べると斜視もあり得ると知り「だから視野が広くなってみてしまうのでは?」と考える…
脇見をしても何も起こっていないときもあるはずなのに、それはすべて見落として、脇見をしたときに相手の反応が変わったと感じたことだけをピックアップしてしまう状態になります。
ただ、事実として横目で睨んで絡まれたり、見ないで欲しいと直接言われたケースもありますので、全てが全て確証バイアスの影響によるものとは言い切れません。
直接見なかったとしても電波を飛ばしているから不快な思いをさせるんだとおっしゃる方もおられますが、客観的に考えて電波を飛ばすというのは人間の能力として至難の技ではないかと思っております。
脇見を気にするあまりキョドキョドして不自然な態度をとっていたり、不安や緊張で違った雰囲気を出しているために変な目で見られることが、もしかするとこの電波という表現に該当する部分なのかもしれませんね。
脇見恐怖症で悩んでいる人はこのバイアスの影響によって薬を飲んで不安が和らいでも、脇見をしてしまうこと自体は変わらないと言われるケースがほとんどです。
脇見恐怖症を改善する3つのポイント
1.感情を上手く表現できるようにする
脇見恐怖症で悩んでいる人は自分の感情に鈍感で口数が少ない傾向があります。
親子関係によって形成された自分の感情を表現しない習慣、もしくは、感情を上手くコントロールできない習慣が根付いているケースがほとんどです。
嫌なことを嫌だと認識できていないことで無自覚のストレスを抱えたり、愛されたい気持ちに気付けないまま怒りをコントロールできずぶつけて自尊心を傷付けたり…
これらは自分の感情を抑圧していたり、どこか見ないように否認していることによって起こっています。
ですから、改善するためにカウンセリングで話をして自分の本当の感情に気付くこと、そして、日々の中で少しずつ表現していくことが必要となります。
上手く感情をコントロールして他人に表現できるようになると自信が持てるようになり、不安や恐怖も自分のコントロール下に置けるようになるので、不安にかられて脇見をしてしまう状態を改善できるのです。
2.他人と自分の境界線を引けるようにする
「脇見をしたら相手が嫌な思いをするに違いない」という自分の考えを相手に押し付けているから、相手も自分と同じくらい脇見に対して過敏だと思ってしまう。
「でも、実際は気にしない人もいるわけだし相手によって変わるはず」と頭では理解していても感覚的に理解できていないからどうしてもそう考えてしまいます。
脇見をして迷惑を掛けてしまうから人とのかかわりを避ける。
避けることによってどんどん自分の考えに固執する。
自分の考えに固執することによって自分が脇見を気にするのと同じくらい他人も脇見を気にすると思い込んでしまう。
余計に脇見をして迷惑を掛けてしまうことを気にして人とかかわれなくなる。
この悪循環を改善するために人とのかかわりは必須となるのです。
できるだけ多く他人の価値観や考えに触れていくことによって自分の考えの視野が広がり、「自分はこういう風に考えるけど、あの人はこう考えるんだな」と線引きができるようになります。
3.自分の人生の主役を見つけ出しそのために生きること
脇見をしてしまうのを止められない、脇見というのは名前の通りそもそも主ではなく「脇」です。役でいうと脇役みたいなものです。
ドラマで言えば極端な話エキストラのレベルですから、ドラマ見てるのに主役じゃなくてエキストラの人ばっかり気にしているような状態ですね。
もし、エキストラが知り合いだったとか一目惚れしたとかなら話は別ですが、そうでない場合にドラマでエキストラばっかり追いかける人はいないと思います。
なぜそうなってしまうのか?
それは、自分の主になるものを見失っているもしくは目をそらしているからです。自分がどうしたいのか、どうなりたいのか、どう思ってどう感じてといった自分の本音が薄れているから、脇の優先順位が上がってしまうのです。
自分の人生においてもっとも大切なことは「脇見をするかしないか」ではありません。
本当に大切なことが何なのかをカウンセリングを受けながら見つけ出し、その大切なことのために生きられるようになれば脇見をすることはなくなります。
というより、やらないといけないことがいっぱいあることに気付くため脇見をしている暇がなくなります。
最後に
脇見恐怖症に悩んでおられる方からのご相談は多く、現在全体の30%近くになっております。
「脇見さえなければ…」という万能感を抱いている方が多く、カウンセリングに求める期待値が高すぎて1回で終わるケースもありますが、自発的に継続されている方は取り組みを続けて改善されています。
症状に耐えながらなんとか過ごしておられるケースもありますが、発症の時期が思春期であることが多いため時間が経過すれば経過するほど後悔が募るものです。
早い段階で改善して自分の進みたい道に進めるようになっていただきたいと思っています。