幼児的万能感のことは深く認識している部分ですが、直接話せば否定される可能性が高いのでカウンセリングではほとんど話しません。
本来であれば人とのかかわりの中で何となく気付いてもらいたいと思っているところでもありますからね。
しかし、気付かないままに何年、何十年苦しんでいる人がいる事実があることを考えると、伝えないといけないことかと思いお伝えすることにしました。
対人恐怖症で悩んでいる人は「この症状さえなければ」という淡い期待を抱いています。
表面化している問題がなくなれば自分は大丈夫だと思っているのです。
人によっては元々優れた能力を持っているのに、対人恐怖症のせいでせっかくの能力が発揮できない。症状さえなければ完璧なのに。本当の自分ならもっとできるはずなのにと信じ続けている人もいます。
でも、残念ながらそれは幻想でしかありません。
小さい頃に「空が飛べる」「魔法が使える」と信じていた何でもできる感覚、幼児的万能感と呼ばれるものでしかないのです。
幼児的万能感と心の成長
本来、幼児的万能感は成長と共に現実に直面しながら失敗や挫折を経験していく中で、どんどん消えていきます。
そして、客観的に自分を見つめ、他人との距離感をはかり、相手の気持ちを考えることができる大人に成長していくのですが、親に甘やかされて育ったり、大きな失敗や挫折をしてこなかった(もしくはそういう場面から逃げてきた)人は、幼児的万能感を抱えたまま大人になってしまうのです。
私自身も高校生の頃「るろうに剣心」というアニメの非現実的な必殺技が自分にも使えると信じていたために、ボールペンを刀に見立ててインクを撒き散らした恥ずかしい過去があります(笑)
その後、社会人になってからも営業でたまたま成績が良かった経験から「自分はどこに行っても売上があげれる人間なんだ」という幻想を抱いて対人恐怖症を克服するまでの期間ずっと売上があがらず苦しみました。
「俺は営業ができる人間なんだ」という愚かな幼児的万能感は、上司のアドバイスを聞き入れずたまたま売上があがったときに自慢げになる最悪な態度に表れ、最終的に解雇されてやっと消えたのです。
当時同僚から「西橋さんを一言で表すと唯我独尊やね」と言われるほどでしたから相当嫌な感じだったのだと思います。
今考えればそんなことできるわけないだろうと思う馬鹿な話ですが、当時の私は真剣にできると信じていました。
まさに幼児的万能感というやつだったわけです。
幼児的万能感が生み出す厄介な問題
他人をコントロールできる感覚に苦しむ
幼児的万能感によって「自分ならできる」というポジティブな感覚だけ抱くならいいのですが厄介な側面があります。
それは自分が何でもできると思うがゆえに他人のことまでコントロールできる錯覚を持ってしまうことです。
- 自分が価値の低い人間だから相手が挨拶をしなかった
- 自分がおかしいから周りの人が見てくる
- 自分が上手く話せないから相手が沈黙してしまう
- 自分が睨んでしまうから相手が目をそらす
- 自分の表情がぎこちないから相手もぎこちない感じになる
このように自分のせいで相手の反応が変わったと考えるようになるのは、他人のことも自分がコントロールできると思っている証拠だと言えます。
そもそも、他人のことなんて自分ではコントロールできないと思ってるなら気にならないですからね。
頭では自分のせいだけじゃないとわかっている方がほとんどだと思いますが、それでも相手の反応が気になってしまうのは根っこに幼児的万能感を残したままになっているから。
幼児的万能感を克服して「自分が何でもできる」という感覚が薄れてきたときに初めて、自分と他人を切り離して自分のせいじゃないと思えるようになるのです。
思い通りにならない現実が受け入れられない
幼児的万能感を持っている人は、世の中のすべてが自分の思い通りになると信じてやみません。
自分は何でもできて周りを思い通りに動かせる特別な存在だと思っている。
でも、現実は何も大したことをやっていないし、やろうと思えばできるという肥大化した幻想だけ。
当然ながら周りは誰も評価してくれないのですが、自分は優れていると思っているから評価されないことに強い不満を抱きます。
そして、優秀な自分を評価できない周りがおかしいという考えに至る。
他人に責任転嫁することによって「何でも思い通りにできるはずの自分」という幻想を守るのです。
対人恐怖症を発症して「症状があるからできないんだ」「症状があるから人に好かれないんだ」と自分を納得させるのも同じ。
現実を受け入れられないことで人間関係に支障をきたします。
幼児的万能感を克服して成長するために
幼児的万能感は、本来成長過程で自然と消えていきます。
成長と共に現実と向き合い「何でも自分の思い通りにならないんだ」という事実を受け入れていくからです。
しかし、幼児的万能感を持ち続けている人は、現実と向き合わず自分の可能性を消さないように生きてきました。
だから、幼児的万能感を克服するためには、幻想的な可能性をなくすことが必要なのです。
これからお伝えする私の営業経験をもとに、自分がどれだけ可能性を残しているかに目を向けてみてください。
見込み客を多く抱える売れない営業マン
保険会社で電話営業をしていた頃、契約につながりそうな会社を「見込み客」としてリストアップしていました。
話したときの反応が良かったり、何かで困っていたり、見直しを考えていたり…
絶対に契約できるかどうかはわからないですが、「結構です!」とガチャっと切られるところに比べれば可能性は高いと言えます。
見込み客が5件、10件と増えていくと契約が取れていなくても「見込み客があるから契約が取れるだろう」と変な安心感が出て営業活動を怠けるようになっていました。
しかし、実際は見込み客は所詮見込み客なのでほとんどが契約に至らず。
私だけでなく数字が上がらない営業マンは共通して見込み客を多く抱えていました。
背景にあった「可能性」という名の甘い蜜
見込み客が増えれば契約できる「可能性」は高まります。
10件あれば1件くらいは契約につながるかも。
100件あるから10件くらいは契約になるかな。
考えれば考えるほど可能性を潰したくなくて現実を見ないようになってしまう。
見込み客として残したいから何度かアプローチして契約できないかもと思っても答えをもらわないままにしたり。
可能性を潰さない限り見込み客として残すことができますからね。
本来の目的は契約を取ることだったはずが、契約の可能性を残すことに変わっていたわけです。
こんなことしてて契約なんて取れるわけありません。
曖昧な態度をとるから踏み込めず本当なら契約に至ったはずの見込み客を他にとられてしまったりすることもありました。
可能性を潰すことで地に足が着く
逆に優秀な営業マンは見込み客をいかに早い段階で潰すかを考えて行動していました。
「契約できる可能性」を残せば営業活動に支障が出ることをわかっていたのでしょう。
可能性を潰すことはつらいことです。
見込み客を潰さず100件でも200件でも抱えている方がどれだけ気持ちは楽かわかりません。
しかし、見込み客を抱えていては契約に必要な行動量は落ちていくばかり。
見込み客が減れば契約が取れていない現実に直面して不安になるでしょう。焦るでしょう。
それが新たな会社へのアプローチにつながって契約が取れるようになるのです。
可能性を残してばかりいませんか?
営業マンの話で説明してきましたが、以下のようなことも可能性を残す行動です。
- 好きな人がいても告白しない
- 本気を出さない
- 人とのかかわりを避ける
- できそうにないことはやらない
- 間違う可能性がある質問には答えない
可能性を残せば現実に直面せずに済みます。
告白せずにいればフラれてつらい思いをすることはないし、やらなければできない自分を知られて恥ずかしい思いをすることもないでしょう。
しかし、可能性を残せば残すほど本当の自分が見えなくなってしまいます。成長できないまま周りとの差がどんどん開いていきます。
幼児的万能感を克服するためには地に足をつけることが必要です。
可能性を残してばかりいないかどうか、自分自身に問いかけてみてください。
幼児的万能感について質疑応答(補足事項)
今回の記事への反響が多く、勘違いされている方もおられたため以下の補足を追加しました。
Q:自分の症状で他人が変わることは普通にあると思うのですが…
ここでの変わるは「影響」を意味します。
たしかに、こちらがガチガチに緊張していれば相手にも緊張感が伝わってしまうことはありえます。何かしらの症状が出ることで相手の反応が変わることもあります。
しかし、症状によって相手をコントロールできるかというとできないわけです。
私が言いたかったのは、影響ではなくコントロールができないということです。
一時期、対人恐怖症の方に同行してカウンセリングをおこなったことがあり、症状が出た時の相手の反応は嫌という程目の前で見てきました。しかし、症状が出たことで変わる人もいれば、まったく変わらない人もいたわけです。
当たり前の話ですが、相手の変化に鈍感なタイプの人は症状が出ていようがいまいが変わりません。
幼児的万能感が強い人は、無意識にこういったところまでコントロールできると思っているがために自分のせいだと苦しむわけです。
あくまでも、無意識で理解できてないという話であり、頭では理解しておられる内容だとは思います。
Q:幼児的万能感はポジティブな面があるから良いものではないでしょうか?
いえ、違います。
たしかに幼少期において幼児的万能感はプラスに働きます。
自分の欲求を満たすために行動を起こすことで様々な経験が積めるからです。
しかし、思春期を迎え、大人になっても抱き続ける幼児的万能感の非現実的なポジティブは人との関係で支障をきたします。
相手の立場になれず自己中になってしまうため、自分の思い通りにならないだけで些細なことにでもイライラしやすく、素直に相手の話を受け入れられない面が出るからです。
そもそも、ポジティブな面だけでなく、一つ目の質問にあったネガティブな面もセットになっているという点も忘れないで下さい。
最後に
たぶんこの記事を読んでも幼児的万能感を抱いている人は自分のことだと思わない可能性が高いだろうなと思っています。
それでも、もしかしたら気付いてくれる人がいるかもしれないという期待を込めて書きました。
依存症、ひきこもり、対人恐怖症…幼児的万能感は多くの方に当てはまる問題ではないかと感じています。
症状がなくなりさえすれば大丈夫だ、すべてが上手くいくなんていう甘い考えは捨ててください。
本質的な問題は症状にありません。
幼児的万能感を抱えたままでは、普通に人生を楽しんでいる周りのみんなにどんどん置いていかれますが、今から地に足を着けて周りのみんな以上に努力すればいくらでも挽回できます。
少しずつ現実を見て地に足を着けて、本当の自分を認めて成長させていくこと。
具体的にどうすればいいかは人によって異なりますので、カウンセリングでサポートさせていただいております。