人間の視界は180~200°くらいと言われていますので、他人が視界に入るのは日常的に経験していることです。

例えば、電車でうつむいてスマホをいじっていたとしても、視界には他人が入っているので脇見をしようと思えばできます。

視界に人が入ろうが入るまいが気にしない状態であれば、脇見をするかしないか、それによって他人に迷惑を掛けるか等といったことは考えません。

しかし、脇見恐怖症で悩んでいると視界に入った人がどうしても気になるから意識を向けてしまう。

見たくないのに脇見をしてしまうから苦しむのです。

脇見で不快な思いをさせた相手への罪悪感、脇見をする自分が許せない怒り、自分が変に思われたのではないかという不安…

脳内の不安恐怖を司る扁桃体の過剰反応で視覚野が活性化、実際に視野が広がって周りがよく見える状態にもなっています。

脇見恐怖症とは?

脇見恐怖症とは、自分が脇見をして他人に迷惑を掛けたり不快な思いをさせてしまうことに不安や恐怖を感じる症状です。

基本的には以下のような人に対して起こるものですが、視界に入る物に対して起こる症状もあります。

  • 教室で黒板を見るとき視界に入る席の子
  • 職場でパソコン越しに見える同僚
  • 車を運転しているとき助手席に乗っている人
  • 外食をしたとき視界に入る人
  • 目の前に2人以上の人がいるとき話していない人
  • 電車で隣に座っている人
  • 道を歩いていてすれ違った人
  • 家でテレビを観るとき視界に入る家族

物の場合は迷惑を掛けるどうこうはありませんが、読書や勉強など自分がやろうとしていることに集中できないことに苦しむ。

以下のように過去の文献では自己視線恐怖症として扱われており、脇見恐怖症という表現は見当たりません。

〔症例2〕TM 男性,発症:18歳,自己視線恐怖
高卒後,予備校に通っていたとき,教室などで無意識のうちに自分が人を見てしまうことがよくあった。すると,自分の視線に気づいた人が不愉快になるようでチラと見返してくるので,それが苦痛に感じられた。現在,授業中は教室の右端に座り,左手で左目をさえぎるようにしてノートをとっているので,あまり気にならない。他の人は視野の周辺に意識があまり向かないようだが,自分は隣の人が気になる。

引用元:対人恐怖症、2000、富山大学保健管理センター

視線で他人に迷惑を掛けてしまうことを恐れるのは同じですからね。

「見たくないのに脇見をしてしまう」という症状は理解されづらく、誰かに相談しても「見たくないなら見なければいいじゃん」と一蹴されたり、病院でも妄想として扱われたり。

その場しのぎ的な対策としてよくされているのが、眼鏡をかける、帽子をかぶる、あと女性の場合は髪の毛で視界をさえぎるというのもあります。

    脇見恐怖症を発症する原理

    思春期に差し掛かり勉強や人間関係でつまづいたりしたときに発症しやすく、受験があるのに勉強に集中できないことから余計に焦ることとなり悪化させていくケースのご相談が多いです。

    親に言われるがまま何も考えずにきて、勉強が思い通りに進まなくなる、女子と話したいのに話せないといった壁にぶち当たったとき、自分で解決するために目の前の問題と向き合わないといけない。

    でも、今まで自分で考えてこなかったからどうしていいかわからない、目の前の問題から目をそらしたいから脇見をする。

    この脇見が生み出される原理は、自発的に目の前の問題を解決できるようになれば脇見恐怖症が改善するという原理からも裏付けされています。

    自分で考えて目の前の問題を解決してこなかったから自信がない。自信がないから他人の評価がどうしても気になってしまうんですよね。

    脇見恐怖症を発症するキッカケとしては、「なんか見てくる」「見ないで」等と誰かに言われたケースが多いです。

    脇見恐怖症の原因

    安心感のなさ

    親子関係、家庭環境でありのままの自分を認めてもらえなかった。

    認めてもらえるのは、兄(姉)としての役割を果たしたときだけ、勉強ができたときだけ、親の言うことを聞く良い子のときだけ。

    ある条件を満たしたときだけ愛される親子関係では安心できません。

    親が精神的に不安定で頼りたくても頼れず、一人で抱え込んでいた人も安心感がないのは同じです。

    また、学校や職場といった外での人間関係も影響します。

    いじめに遭った場合、人に対して安心するどころか恐怖心を抱くようになってしまう。

    自分を認めてくれる友達や恋人に巡り合えればいいのですが、親子関係でつまずいていると上手く関係を築くことができません。

    今までの人間関係で安心感が得られたことが少なく、不安が強いから周囲を警戒せざるを得ない。

    だから、人が視界に入るとどうしても意識が向いてしまうのです。

    自分で自分をコントロールできる感覚が薄い

    「他人が自分をどう見ているか」という他人からの評価への依存があります。

    相手に嫌われたくない気持ちが強いから相手にどう思われているかが気になって脇見をしてしまう。脇見をすると相手に嫌がられるのは頭ではわかっているけど気になって仕方がないからどうしてもまた見てしまう。

    自信がないから他人の反応にビクビク、オドオドしている状態なんですよね。

    脇見恐怖症で悩んでいる人は、親に言われるがまま自分で考えて行動していなかったり、自発的に何かをやる習慣がなかったりします。

    人は自発的に何かを成し遂げることによって「自分でできた」という実感を持てるため、自信を付けることができます。

    ただただ言われるがまま、もしくはやらなきゃいけないからと何かをこなしてきたとしてもそれは自信にはなりません。

    自分で考えて実行すること、結果を出すためにどうすればいいかを考えながら試行錯誤し続けること、自分の感情を上手くコントロールすること等、自分のことを自分でコントロールできる感覚がないから視線もコントロールできず見てしまうのです。

    そして、人を見ることへの意識が過剰になることによって見てはいけないと思うから余計に気になって見てしまい、脇見をする習慣が根付いてしまうのです。

    自分が本当にどうしたいのか、どうなりたいのかを見失っていることが、脇見への執着を生み出しているとも言えますね。

    発達障害による二次障害

    発達障害の人が二次障害として脇見恐怖症になるケースも珍しくありません。

    以下のような傾向があるため、脇見恐怖症を発症しやすいんですよね。

    • ADHD(注意欠陥多動性障害)で気が散りやすい
    • 環境の変化に弱く適応するのに時間がかかる
    • 聴覚過敏で周りの音ばかり気になって相手の話が入ってこない
    • 感情のコントロールが困難になる
    • 他人と比較して劣等感を抱えやすい

    親が発達障害特有の性質に対して否定的だったり、心配して過干渉や過保護になったりすることも影響します。

    脳内の情報を取捨選択するフィルターが上手く働かないことで、他の人が気にしないことまで拾ってしまう。

    他人の視線だけでなく態度、行動、音など、情報を拾っては反応を繰り返し、周りから変に見られやすいところがあります。

    また、相手に気を遣っているつもりが抜けていたりと、コミュニケーションにおいても問題が起こりやすい。

    結果として自分に対する周りの反応が変わり、脇見と結び付けて苦しむわけです。

    諸悪の根源は脇見?

    脇見をなくすことに執着する原因

    脇見恐怖症で悩んでいる人は、自分が脇見をすることにすべての問題を置き換えています。

    友達も多くはないけど困ってはいない、話しかけようと思えば自分から話せるし、ストレス発散もできている、親子関係にも問題はないし、楽しいこともある、勉強もある程度できていたし、本音で話もできているし、やりたいことも一応は考えられている…

    こんな感じで脇見以外は何の問題もないかのように答える人もいるくらい。

    嘘をついているわけではなく、問題を自覚できない状態になっているんですよね。

    また、会話をしてみるとわかるのですが、何か素直でない部分が強く、同じ内容のことを聞いても自分が認めたくないと思っていることに触れそうな内容は否定し、そこに触れない言い方に変えると肯定するという傾向が見られます。

    自分には問題がなく脇見だけが問題だと思っている。

    だから、脇見をなくすことに執着してしまうんですよね。

    自分では本質的な問題に気付けないのも症状

    脇見さえなければ問題ないと思いがちですが、こう思ってしまうこと自体が脇見恐怖症の症状だと言えます。

    そもそも、何も問題がないのに症状だけが出るなんてことはありません。

    何か問題が起こっているからこそ、脇見をしてしまうという症状が表面化しているのです。

    にもかかわらず、自分ではその問題に気付けない、無意識に目を背ける状態になっているせいで、本当の自分が見えないまま、本質的な問題と向き合わなくて済むように脇見を繰り返してしまいます。

    脇見恐怖症は無意識レベルで本質的な問題を脇見にすり替えてしまう非常に厄介な状態なのです。

    脇見恐怖症の本質から見た克服の方向性

    脇見恐怖症の本質は、見たくないのに相手を見てしまうことでも、自分の視線が相手に迷惑を掛けてしまうことでもなく、全然違うところにあります。

    それに気付けないから毎日毎日「見たら相手に迷惑を掛けてしまうから見ないようしよう」と意識して、余計に自分の視線に対する意識を強めて自己嫌悪になってどんどん悪化させていくのです。

    本質は視線にあらず

    「見たら相手に迷惑を掛けてしまう」「自分が100%悪い」と思い込んでいる自分の考え方や制御できないほど抑圧された感情にあるのです。

    だから、自信を付けたり、今の思い込み以外の可能性が見れるように考え方の視野を広げたり、自分自身と向き合って自分を知ったり、自分の感情を自覚できるようにしたり、他人の価値観に触れてみたり、今までの習慣を崩してみたり、環境を変えてみたり…

    こういった悩んでいる人からすれば関係ないと思うようなことをしていくことが必要なのです。

    脇見恐怖症を克服する3つのポイント

    感情を上手く表現できるようにする

    脇見恐怖症で悩んでいる人は自分の感情に鈍感で口数が少ない傾向があります。

    親子関係によって形成された自分の感情を表現しない習慣、もしくは、感情を上手くコントロールできない習慣が根付いているケースがほとんどです。

    嫌なことを嫌だと認識できていないことで無自覚のストレスを抱えたり、愛されたい気持ちに気付けないまま怒りをコントロールできずぶつけて自尊心を傷付けたり…

    怒りは家族、学校や職場といった集団との絆を結びたい気持ちの表れだったりしますが、自分の感情を抑圧していたり、どこか見ないように否認しているから気付けない。

    だから、カウンセリングで話をして自分の本当の感情に気付けるようになること、そして、日々の中で少しずつ表現していくことが必要となります。

    上手く感情をコントロールして他人に表現できるようになると自信が持てるようになり、不安や恐怖も自分のコントロール下に置けるようになるので、不安にかられて脇見をしてしまう状態を克服できるのです。

    他人と自分の境界線を引けるようにする

    「脇見をしたら相手が嫌な思いをするに違いない」という自分の考えを相手に押し付けているから、相手も自分と同じくらい脇見に対して過敏だと思ってしまう。

    「でも、実際は気にしない人もいるわけだし相手によって変わるはず」と頭では理解していても感覚的に理解できていないからどうしてもそう考えてしまいます。

    脇見をして迷惑を掛けてしまうから人とのかかわりを避ける。

    避けることによってどんどん自分の考えに固執する。

    自分の考えに固執することによって自分が脇見を気にするのと同じくらい他人も脇見を気にすると思い込んでしまう。

    余計に脇見をして迷惑を掛けてしまうことを気にして人とかかわれなくなる。

    この悪循環を改善するために人とのかかわりは必須となるのです。

    できるだけ多く他人の価値観や考えに触れていくことによって自分の考えの視野が広がり、「自分はこういう風に考えるけど、あの人はこう考えるんだな」と線引きができるようになります。

    自分の人生の主役を見つけ出しそのために生きること

    脇見をしてしまうのを止められない、脇見というのは名前の通りそもそも主ではなく「脇」です。役でいうと脇役みたいなもの。

    ドラマで言えば極端な話エキストラのレベルですから、ドラマ見てるのに主役じゃなくてエキストラの人ばっかり気にしているような状態ですね。

    もし、エキストラが知り合いだったとか一目惚れしたとかなら話は別ですが、そうでない場合にドラマでエキストラばっかり追いかける人はいないと思います。

    なぜそうなってしまうのか?

    それは自分の主になるものを見失っているもしくは目をそらしているから。

    自分がどうしたいのか、どうなりたいのか、どう思ってどう感じてといった自分の本音が薄れているから、脇の優先順位が上がってしまうのです。

    自分の人生においてもっとも大切なことは「脇見をするかしないか」ではありません。

    本当に大切なことが何なのかをカウンセリングを受けながら見つけ出し、その大切なことのために生きられるようになれば脇見恐怖症はなくなります。

    というより、やらないといけないことがいっぱいあると気付くため、脇見のことを考えている暇がなくなるという感じです。

    最後に

    脇見恐怖症に悩んでおられる方からのご相談は多く、一時は全体の半数を占めるほどでした。

    「脇見さえなければ…」という万能感を抱いている方が多く、カウンセリングに求める期待値が高すぎて1回で終わるケースもありますが、自発的に継続されている方は取り組みを続けて改善されています。

    症状に耐えながらなんとか過ごしておられるケースもありますが、発症の時期が思春期であることが多いため時間が経過すれば経過するほど後悔が募るものです。

    早い段階で克服して自分の進みたい道に進めるようになっていただきたいと思っています。