電車で痴漢を繰り返していた人が女性に声を上げられて捕まったとします。
捕まったことによって「俺はなんてことをしてしまったんだ」と後悔し、「もう絶対にやらない」と誓います。
しかし、またいつの間にか電車で痴漢をしてしまっている自分がいる。
他人から見れば「なんて意志の弱い人間なんだ。情けないヤツだ。」と思われるかもしれませんが、性犯罪の再犯は意志の強さで語れないレベルの問題なのです。
性犯罪で逮捕されても再犯してしまう原因とは?
行動心理学から見た再犯の原理
性犯罪の再犯はたいてい以下のような流れで引き起こされます。
性犯罪をして逮捕された
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やらないようにしようと頑張る
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平穏な日々が続く中で「もう治った」と思い込む
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再犯防止の意識が緩み、対策や改善に向けた取り組みがおろそかになる
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逮捕されたのは偶然で今度は大丈夫かもしれないと思いだす
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1回だけならやっても大丈夫だろうと思う
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また性犯罪をしてしまう
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捕まらなかった(今回大丈夫だったから次も大丈夫だろうと思う)
↓
また性犯罪をしてしまう
逮捕という罰を受けた時点では行動をやめることができるのですが、その罰がなくなってしまうとまた同じ過ちを繰り返してしまう傾向が人間にはあります。
これは性犯罪に限らず、浮気、風俗通い、車のスピード違反や駐車違反等にも当てはまる原理です。
成功体験と失敗体験
性犯罪に対して使うのは適切ではないかもしれませんが、わかりやすくするために成功体験と失敗体験に当てはめて再犯につながる感覚をご説明します。
例えば、盗撮を100回やった時点で捕まった人がいたとします。
最終的に捕まってはいますが、捕まらずにできた成功体験が99回もあります。
1回捕まったことで大変なことをしたと認識して反省したとしても、実際に経験したこの99回の成功体験が消えるわけではありません。
捕まった直後の衝撃や反省が薄まってくれば、あくまでも1回の失敗体験という認識にしかならず、99回の成功体験が上回ってしまうわけです。
これが先程の「1回だけならやっても大丈夫だろう」という考えにつながっています。
わかりやすく100回を例にしましたが、5回でも10回でも変わりません。
自分の感覚の中で成功体験が上回っている限り、再犯の危険性はあるのです。
カウンセリングでは、条件反射制御法、認知行動療法を中心とするアプローチで成功体験を失敗体験に塗り替える取り組みをおこなっております。
脳内に残った快感とスリル
もう一つの原因は性犯罪をすることで得られる快感とやってはいけないことをやるスリルにあります。
この快感とスリルは麻薬のようなもので、一度経験するとその感覚が脳に刻まれてしまうのです。
性犯罪をして捕まった方でそのときが初めてというケースはほとんどありません。何度も繰り返して快感とスリルを感じ続けています。
一度だけでも残るのに繰り返していればどんどん強化され、性犯罪で得た快感が深く刻み込まれてしまうわけです。
表面的に「もうやらない」と思ってはいても、心のどこかに「また痴漢や盗撮をして快感を得たい」と思う気持ちがある。
快感を得たい気持ちが表面化してくると共に、頭の中で性犯罪への正当化が始まって問題行動が起こります。
危険因子を抱えた状態で性犯罪をする前と同じ生活をしていると何かのキッカケで再犯してしまうことになるのです。
痴漢や盗撮等の性犯罪は、脳の機能も考慮した上で対処していかない限り再犯を防止できないものだと言えます。
性犯罪の再犯を防止するために
表面的な対策だけでは再犯を防げないと認識する
初めてカウンセリングを受けていただいた際、性犯罪の再犯防止に向けて取り組んでおられる対策をお聴きするのですが、たいてい以下のような答えが返ってきます。
- 反省して絶対やらないと決めた
- カメラを使えないようにした
- 道具一式を捨てた
- 電車に乗らないようにしている
- 女性を見ないようにしている
- 外出を控えている
確かに表面化している性犯罪をまずやらないことは当然ですが、本質的な問題が解決されていなければ別の形で問題行動を起こしてしまいます。
性犯罪を再犯させないためには解決しなければならない問題があるのです。
背景にある問題を解決して初めて性犯罪の再犯防止ができたと言える
性犯罪は「再犯」が問題視されます。
だから再犯しない期間が続けば改善したと思ってしまうのですが、そう単純なものでもありません。
確かに性犯罪を今後一切やらなくなれば、被害者を生み出すことも、逮捕されることも、周りに迷惑を掛けることもない。
しかし、再犯しない状態になっていても背景にある問題が未解決であれば、いずれ何かしらの大きな変化、アクシデントなどが生じたときに表面化します。
再犯してしまうのは性犯罪をするほどの状態を作りだす問題を放置しているから。
性犯罪の再犯防止は背景にある大きな問題を解決し、大きな変化があったとしても乗り越えられる状態になって初めて成立するのです。
性犯罪をしていないという表面的な結果だけでなく、水面下にある問題がどれだけ解決できているかにしっかり目を向けて取り組みを続けていただければと思います。