彼からのLINEの返信が少し遅れただけで「もう私に飽きたのかもしれない」と思う。
友人が他の人と親しげにしているのを見ると「自分はいなくてもいいのでは」と思えてきて孤独感に襲われる。
日常的にこのような強い不安に苛まれているなら、それは「見捨てられ不安」かもしれません。
見捨てられ不安は愛情深さゆえに起こる心の叫びと言えますが、その不安が原因で人間関係がギクシャクしたり、恋愛が長続きしなかったりと、人生につらさを感じやすくなっている部分があります。
見捨てられ不安の具体的な症状と原因から具体的な克服方法、恋愛や夫婦関係で不安を乗り越えていくための対処法についてお伝えしていきます。
見捨てられ不安とは?見捨てられ不安の定義、愛着障害との関係性
見捨てられ不安とは、「自分にとって大切な人から見捨てられてしまうのではないか」という強烈な恐怖や不安が慢性的に続く心理状態です。
この不安は、単なる寂しさや心配といったレベルではなく、日常生活や対人関係に大きな支障をきたします。
特に恋愛や親子関係、親密な友人関係など、愛着を求める関係において顕著に現れるのが特徴です。
見捨てられ不安の背景には多くの場合、愛着障害(アタッチメント障害)や境界性パーソナリティ障害(BPD)の問題があります。
愛着障害とは、幼少期に養育者との間で安定した愛着関係が築けなかったことが原因で、大人になってからも人間関係において不安定さや不安を抱えやすくなるものであり、見捨てられ不安はこの愛着の問題が根底にあるケースが多いです。
見捨てられ不安が引き起こす具体的な症状とチェックリスト
見捨てられ不安は思考や行動のパターンに様々な影響を及ぼします。
自分の症状を客観視するために以下のチェックリストを確認してみてください。
症状チェックリストYes / No
- 恋人や友人からの連絡が少しでも遅れると「嫌われた」「見捨てられた」と感じ、強い動揺やパニックに襲われる
- 相手の愛情を確認するためにわざと冷たい態度をとったり、連絡を絶ったりする「試し行動」を取ってしまう
- 一緒にいない時間や相手が自分以外のことに熱中していると強い嫉妬心や孤独感、怒りを感じる
- 相手に自分の理想を押し付けたり過度に尽くしたりするなど依存的になりやすい
- 自分の感情がジェットコースターのように激しく変動して周りもその変化についていけないと感じる
- 些細な言葉や態度を自分への拒否や否定として過敏に受け取ってしまう
- 人間関係を突然断ち切ること(リセット)を繰り返してしまう
※チェックリストはあくまでも自己理解の参考であり、診断をおこなうものではありません。
なぜ見捨てられ不安を抱えるのか?根本的な原因とは?
見捨てられ不安は意志の弱さや性格の問題ではありません。
多くの場合、過去の経験によって心に根付いた『自分は愛されない存在だ』という無意識の思い込みが原因となっています。
見捨てられ不安の根本的な原因として、最も影響が大きいのが幼少期の養育環境です。
幼少期に親(もしくは親以外の養育者)からの一貫した愛情や安心感を得られなかった場合、「困った時に誰も助けてくれない」「自分は無条件に愛される存在ではない」という感覚が心に刻み込まれてしまう。
養育者からの拒絶、過干渉、無関心、もしくは身体的、精神的な虐待といったトラウマ的経験は「いつか大切な人はいなくなる」という強い不信感を生み出します。
また、恋人との突然の別れや信頼していた友人からの裏切り、家族との死別などの経験を繰り返す中で「人はいつか自分の元からいなくなる」という不安が強化され、見捨てられ不安につながっているケースも少なくありません。
見捨てられ不安を克服するための4ステップ
見捨てられ不安の克服は「自己理解」から始まります。
すぐにできるセルフケアから、専門的な克服方法まで、具体的な9つの対処法を紹介します。
1.不安を客観視して距離を置く
不安を抱えたときは無理やり抑え込もうとせず客観視することが大切です。
まず「恋人からのLINEの既読がつかない」「友人が自分を置いて先に帰った」等、何が不安の引き金になったのかを具体的に考えてみる。
そして、「またこんなことで不安になっている」と自分を責めず、「不安になるよね」とありのままの感情をそっと受け止める。
ノートに「状況」「その時の思考」「感情」を書き出してみてください。
文字にすることで感情と距離を置き、冷静に見つめ直しやすくなります。
2.「自己肯定感」を育み、不安の根を絶つ具体的な実践
見捨てられ不安の背景には、「自分には価値がないから見捨てられる」という思い込みが隠れています。
この思い込みを変えるには自己肯定感を養うことが不可欠です。
「朝、時間通りに起きられた」「部屋の片付けができた」等、小さな「できた」を意識的に見つけてスマホにメモするようにしてみてください。
「よくやったね」「頑張ったね」と誰かに褒めてもらおうとするのではなく、自分で自分を褒める習慣を身に付けていきましょう。
3.境界線(バウンダリー)を意識した健全な人間関係の築き方
相手への依存や試し行動は、結果的に相手を疲れさせ、関係を悪化させる引き金になります。
健全な距離感を学ぶことが見捨てられ不安を減らす鍵です。
相手の感情や行動をコントロールしようとせず、「相手には相手の人生と都合がある」という境界線を引きましょう。
趣味やリラックスできる活動など、一人でも満たされる時間を持つことで他者への依存度を下げていきます。
4.現実検討能力を高めて「妄想」と「現実」を分ける訓練
不安が強いとき頭の中では「最悪の事態」が現実かのように膨らみがちです。
状況を客観的に見る現実検討能力を鍛えましょう。
例えば、「彼はもう私に飽きたのでは」と不安に思ったとき、「本当に飽きたと言える客観的な証拠は?」「飽きていない証拠は?」といった質問を自分に投げかけます。
LINEの返信がすぐ来ないことに不安を感じたら、「今忙しくしているのかもしれない」と「私に飽きたのでは」以外の可能性を考えてみるようにしてみてください。
恋愛・夫婦関係における見捨てられ不安の対処法
特に恋愛では、見捨てられ不安が最も強く現れます。
パートナーとの関係を安定させるための具体的な対処法です。
不安をパートナーに伝える際の建設的なコミュニケーション
ただ相手に不安をぶつけるのではなく、建設的に伝える方法を学びます。
「どうして返信くれないの?」という相手を主語にした形(Youメッセージ)ではなく、「返信がないと私は見捨てられた気がして不安になる」という自分を主語にした形(Iメッセージ)で自分の感情と状態を伝えます。
「一日一回は短いメッセージを送り合う」「〇時間以上返信できない場合は事前に伝える」等、現実的で実行可能なルールを二人で話し合って決めるのも有効です。
パートナーが「見捨てられ不安」を抱えている場合の接し方
もし、パートナーが不安を抱えている場合、支える側として意識すべきことがあります。
「大げさだ」「気にしすぎ」等と言わず、「不安なんだね」「そばにいるから大丈夫だよ」という姿勢で安心感を与える接し方を心がけてください。
試し行動などパートナーの感情的な態度に振り回されず、落ち着いて一貫した態度で接することがパートナーの不安定さが落ち着きやすくなります。
一人で悩まないで:専門家のサポートを受ける選択肢
セルフケアだけでは不安が解消せず、日常生活に支障が出ている場合は、専門家のサポートを検討しましょう。
専門的な治療やカウンセリングは、見捨てられ不安の根本原因にアプローチし、より安定した心の状態を築くための助けとなります。
心理療法(認知行動療法など)による専門的なアプローチ
見捨てられ不安に対する心理療法として代表的なものは以下の通りです。
カウンセリングは安全で信頼できる人間関係を経験する場となるため、見捨てられ不安を抱える人にとって大きな意味を持ちます。
認知行動療法(CBT)
不安の原因となる「極端な思考の偏り」や「ネガティブな自動思考」に焦点を当て、現実的で柔軟な考え方や適切な対処法を学びます。
対人関係療法
現在抱えている対人関係の問題に焦点を当て、安心できる人間関係を築くための具体的なコミュニケーションスキルを学びます。
すでにパートナーがいる方の場合、コミュニケーションスキルを学び、関係性の中で回復していくことが可能です。
精神分析的療法
幼少期の愛着形成など、不安の根本的な原因を深く探求し、心の修復を試みます。
克服までに比較的時間を要する心理療法ですが、心の傷が深いほど時間をかけた方が良いことを考えれば最適な選択肢と言えるのかもしれません。
あなたは見捨てられない。今日からできる一歩を踏み出そう
見捨てられ不安は過去の見捨てられた経験によって「もう二度と傷つきたくない」と心が必死に訴えているものです。
この不安は弱さではなく自分を守ろうとする防衛反応だと言えます。
克服への道のりは簡単ではないかもしれませんが、一歩ずつ自分の感情を理解し、自己肯定感を育み、健全な人間関係のスキルを身につけることで心の平穏を取り戻すことができます。
あなたは自分が思っている以上に価値があり、見捨てられる存在ではありません。
まずは今日から不安を感じたときに書き出してみるといった簡単な一歩から始めてみませんか?
もし、一人で取り組むのがつらいと感じたら、カウンセリングという選択肢があることも忘れないでください。






