脳のイメージ

対人恐怖症を克服していくにあたって脳の働きを考慮することは欠かせません。

心は実体がない抽象的なものですが、脳の働きと連動しており、近年は脳科学で証明できることが増えてきているからです。

対人恐怖症と扁桃体

対人恐怖症は「扁桃体」という脳部位と密接なかかわりがあります。

扁桃体は動物脳と呼ばれる大脳辺縁系の一部であり、不安や恐怖を感じてその感覚を記憶するところです。

この扁桃体が不安や恐怖を感じることによって、自律神経系の最高中枢と呼ばれる「視床下部」に刺激を与えます。

次に「副腎」と呼ばれる場所へ伝わり、コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンといったストレスホルモンが分泌される。

その結果、自律神経が交感神経優位の状態になってしまうため、震え、強張り、発汗、呼吸が浅くなるといった身体症状が出てきます。

クマに遭遇したときのような危機的状況だと脳が判断し、思考を停止させ即座に動ける「戦うか逃げるか」のモードに入るわけです。

これが実際クマに遭遇した場面であれば適切なのですが、人と話すときや会議などでなってしまうと頭が働かないから困ります。

目つきが鋭くなる、顔がこわばる、手が震える、頭が真っ白になる…

こういった対人恐怖症の症状は扁桃体の過剰反応による自律神経の乱れが生み出したものだと言えます。

扁桃体が過剰反応する原理

海馬、側頭葉、前頭前野それぞれの役割

扁桃体が過剰反応する原理を説明するにあたって、まず関連する脳の「海馬」「側頭葉」「前頭前野」という脳部位のことからお伝えしていきます。

海馬は扁桃体と同じ大脳辺縁系にあり、隣り合って密接に情報のやり取りをしています。扁桃体の影響を受けて記憶を出し入れするところと認識しておいてください。

側頭葉は海馬からの情報を受け取って長期記憶として保存する役割を担っています。

前頭前野は理性脳とも呼ばれ、扁桃体の働きを制御する力を持っているところです。扁桃体と海馬のやり取り等でビリーフ(信念)を形成、物事を抽象化、一般化することができます。

海馬が側頭葉に長期記憶として残しやすいのは生命の危機につながることです。

例えば、「高いところから落ちて大けがをした」といった失敗経験、「仲良かった友達が急に無視してきた」といった予測に反することが該当します。

友達に無視されたとしても死ぬわけではありませんが、予測に反することは現状維持を妨げるから危険と判断されるのです。

また、集団からの排除につながる可能性があることは、原始時代から受け継がれてきた遺伝子レベルのビリーフによって生命の危機につながると認識するところがあります。

いじめによって扁桃体の過剰反応が引き起こされる流れ

扁桃体の過剰反応は以下のような流れで引き起こされます。

安全なはずの学校でいじめを受けたことによって扁桃体に恐怖の感覚が記憶され、同じ目に遭わないよう海馬がいじめにあった経験を側頭葉に長期記憶として保存。

学校に関する話を聞くだけで扁桃体が「危ない!危ない!」と海馬にいじめられたときの記憶を引き出すよう指示を出し、実際にいじめられていたときと同じかそれ以上のつらさを再体験する。

学校に関する話を聞いたり思いだしたりする中で扁桃体と海馬のやり取りが繰り返され実際よりつらい記憶として側頭葉に刻まれていく。

※この段階で学校に関連することには扁桃体が過剰反応します。

「他人はみんな敵だ。自分を攻撃してくるから警戒しないといけない」というビリーフが前頭前野に形成される。

前頭前野は一般化する能力を持っているため、「クラスメイト」が「他人」にまで広がり、人に会うだけで扁桃体が過剰反応するようになります。

そして、最終的に対人恐怖症を発症してしまうことになるわけです。

扁桃体の過剰反応を抑えるために有効なことは?

セロトニンの分泌を促す

扁桃体の過剰反応を直接抑える方法としてセロトニンの分泌を促すことがあります。

セロトニンは脳の根っこにある「脳幹」のセロトニン神経から分泌される脳内物質です。ドーパミン、ノルアドレナリンと共に三大神経伝達物質と呼ばれています。

セロトニンの分泌を促すためには生活習慣の改善が必要です。

セロトニンの原料となるトリプトファンが含まれた食事(タンパク質、ビタミンB6、炭水化物)を取り、日光を浴びながらの散歩をすること。ヨガや瞑想等も有効と言われています。

抵抗を感じる人は多いですが、心療内科で薬をもらって飲むことも有効です。

前頭前野の働きを活性化する

前頭前野の働きを活性化することは扁桃体の過剰反応を抑えることにつながります。

例えば、「家に泥棒が入ったらどうしよう」と不安になったとして、「いやでも、ちゃんと戸締りはしているし大丈夫だろう」と考えて不安がおさまっていくときは前頭前野が働いて扁桃体の反応を抑えてくれているのです。

前頭前野を活性化させることは、衝動的になりやすい高RS拒絶感受性が高い人(見捨てられ不安が強い人)にも効果的であり、境界性パーソナリティ障害の人が問題を起こさず生活できるまでになると言われています。

前頭前野を活性化させるためには、メタ認知能力(自分の認知を客観視する力)を高めること、認知の歪みを修正すること、自発的な行動を増やすことが有効です。

カウンセリングで自分のことを話していく中でメタ認知能力が高まり、カウンセラーから事例や客観的な意見を聞くことで認知の歪みが修正され、自分がどうしたいかがわかってくることで自発的な行動が増えていきます。

大脳辺縁系の働きを活性化する

前頭前野の働きを活性化することが一般的なので先に紹介しましたが、前頭前野で必死に制御するのではなく扁桃体を含む大脳辺縁系の働きの中で自然と収まっていくのが本来の形ではないかと思っています。

人間の前頭前野は他の動物に比べて大きいとはいえ大脳の約10~12%。対して、扁桃体がある大脳辺縁系は約80%。

大きさだけで影響を判断することはできませんが、思考より感情が優先されやすい人間の性質から大脳辺縁系が及ぼす影響が大きいと考えることができます。

本来であれば大脳辺縁系のレベル、もっと動物的なところで何とかなるはずのものを、必死に前頭前野でコントロールしようとして対人恐怖症の状態に陥っているというのが私の見解です。

大脳辺縁系への働きかけは感情、感覚を中心とするものであり、人によって効果が出やすいことが異なるため、現在の状態や経緯を詳しくお聴きした上でサポートしております。

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