自暴自棄になって問題を起こしてしまった方からご相談いただくケースがあります。
不特定多数との性行為、家庭内暴力、何かしらの犯罪がほとんど。
大きな問題を起こしているにもかかわらず「嫌だと思うことはあまりない」「ムカつくことはほとんどない」「とくに大きな問題はない」等と話されます。
無意識に問題から目を背けているため、自覚できない状態になっているんですよね。
しかし、不満や怒りを押し殺しているどんよりした気持ちは、表情や雰囲気からにじみ出ています。
嫌なことばかりだから自暴自棄になる
お金をもらうためだけにやりがいのない仕事を無理やり頑張って、家では妻に気を遣って言いたいことも言えない。
これといった趣味もなく、友達と遊びに出掛けることもない。
こんな状態ではストレスが溜まって当然なのですが、当の本人は嫌で仕方がない気持ちや莫大なストレスを感じていません。
自覚がないままに溜め込んだストレスが楽しい、嬉しいといった感情を奪い、よくわからないイライラを生み出します。
そして、「もうどうでもいい」という感覚になって、自分か他人に刃を向けてしまうのです。
極論で言うと、自分に刃を向ければ自殺、他人に刃を向ければ殺人です。
自分もしくは他人に刃を向けてしまってからでは取り返しがつきません。
些細なことで衝動的に怒りが爆発する状態は非常に危険なので、現時点で大きな問題が起こっていなくても早く対処するようにしてください。
人は自分を守るために心を偽る
イソップ寓話「すっぱい葡萄」から見た自分を偽る原理
有名なイソップ寓話の中に「すっぱい葡萄(ブドウ)」という話があるのをご存知でしょうか?
お腹が減ってブドウが食べたくて仕方ないキツネが、木になっているブドウが届かないから「どうせあのブドウはすっぱくてまずいんだ」と思って諦めるという話です。
「ブドウが好きなのに食べられない」という矛盾が不快感を生み出すため、「あのブドウはすっぱい」と思い込んで、「食べてもまずいだけだからあんなブドウ食べたくない」と自分に嘘をつく。
元々、キツネはブドウを食べたくて仕方なかったわけですから、届かないとわかったとき悲しい気持ちになったのではないでしょうか。
取ろうとしても取れずイライラすることもあったでしょう。
すごく悔しい思いをしていたのかもしれません。
ブドウが食べたかったという本音だけでなく、付随する感情の動きも誤魔化しています。
自分の心を偽ることで自分を守っているんですよね。
自分の心を偽り続けると本音を見失う
「ブドウを食べたくない」というのが誤魔化した結果なのか、それとも本当に元から食べたくなかったのか。
自分の心を偽り続けていると本音がわからなくなってしまいます。
そして、以下のような状態になっていくのです。
- 「何考えているかわからない」と言われた経験がある
- 「もっと本音で話して欲しい」と言われたことがある
- 幼少期や学生時代を振り返っても記憶がほとんどない
- 素直に相談すること、人に甘えることができない
- まったくと言っていいほどイライラすることがない
- 自分の感情を無視してでも効率化を求める
- 理屈っぽくてどこか冷めている
- 「好き」という感情がわからない
該当するところはありましたか?
自分の心を偽るのは自分を守ることであって悪いことではありません。
しかし、習慣化させると自分の本音がわからなくなるから問題が起こります。
自分の心を偽る習慣が引き起こす問題
まるで偽りがいいことのように錯覚してしまう
他人を責めない、愚痴を言わない、嫌悪や怒りの感情がほとんどないという人は、たいてい自分を偽ることが習慣化しています。
本音を悪魔、偽りを天使として例を作ってみましたので、以下の悪魔と天使のやり取りをご覧ください。
悪魔:「馬鹿のくせに調子乗りやがって」
天使:「いやいや、そんなこと僕が思うはずないんだ」
悪魔:「あんなやつ生きてる価値すらないぞ」
天使:「いや、どんな人にでも価値はあるはず。あの人にもきっといいところはあるんだから」
悪魔:「ほんまにウザい、死ねばいいのに」
天使:「なんてことを言うんだ。そんなひどいこと思っちゃいけないよ」
悪魔:「もう何かもがイヤだ、しんどい」
天使:「他の人はもっとしんどい思いしてるはず。自分だけがしんどいわけじゃないんだから」
悪魔:「親の存在自体に無性にイライラする」
天使:「親に面倒見てもらって生活させてもらっているんだから感謝しなきゃ」
悪魔:「かわいい女の子と付き合いたい、SEXしたい」
天使:「身体の関係じゃなくて大事なのは心のつながり、愛なんだ」
このように悪魔と天使の葛藤を繰り返しています。
本人にとって悪魔は出てきて欲しくないと思っていますので、悪魔を抑え込んで天使の自分で誤魔化すことを繰り返します。
そして、気付かないうちに自分の中に悪魔はいないんだと思い込むようになるのです。
本音がわからず莫大なストレスを抱える
悪魔は存在してはいけないのか?
いえ、逆に存在しなければなりません。
自分を偽っている人の感覚から悪魔という表現を使いましたが、これは自分の本音です。
自分の本音を抑え込むというのは、自然に反することでありどこかに異常が出るようになります。
例えば、人と話すときに何を話していいかわからなくなったり、意見を求められても意見が出てこなかったり、なぜか些細なことで無性にイライラするようになったり、他人の目が異常に気になったり、気持ちが落ち込んでうつ状態になってしまったり、好きという感情がわかなくなったり…
さまざまな面で支障をきたすだけでなく、自覚のない莫大なストレスを抱えることから、うつや依存症、心身症などにつながりやすく危険です。
しかし、異常が出たとしても偽っている自覚がないため、さらに自分をだまして誤魔化します。
「自分はこういう性格なんだ」と自分を納得させる人も多いですね。
自暴自棄を改善する方法
ストレスを吐き出す
対処療法的にはなりますが、ストレスを吐き出すことは効果的です。
根本的な解決を考えると、日々の莫大なストレスを抱えづらい状態にしていくことが必要なのですが、すぐには難しいために代替手段として考えていただくと良いかと思います。
以下のような人間の本能的な行動に近いことをやるとストレス発散しやすいので参考にしてみてください。
- ガムを噛み続ける(またはスルメなどの歯ごたえがある食べ物を噛む)
- 物を殴る、投げる、破る
- ストレッチをする
- 感動するドラマや映画を観て涙を流す
- カラオケで歌う(または大声で叫ぶ)
- 話せる人がいるなら話す、話せないなら書く等で溜め込んだ感情を吐き出す
- シャワーを浴びているときに愚痴を言って一緒に流す
- 小さなことでいいからやりたいことを探してやってみる
- 散歩をする等身体を動かす時間を作っていく
- 腹式呼吸や瞑想でリラックスできる時間を増やす
ストレス発散を頑張るより、何もしない、疲れたときに寝るのが効果あったもします。
ただ、ストレスを自覚できていない状態では発散しようと思えないため、カウンセリングを受けながら怒りの感情やストレスを自覚できるようにすることが大前提となります。
感情を押し殺す習慣を変える
最近の日常を振り返って嫌だと感じていることがないかどうか、イライラしたことがないかどうか等を探してみます。
頭の中だけで考えると整理できないケースは多いですので紙に書き出して考えてみましょう。
- 仕事ができない同僚のフォローばかりさせられている
- 真面目に仕事をこなす自分のところにばかりどんどん仕事が回ってくる
- 生活のためだけに自分を押し殺してやりがいのない仕事をしている
- 親に考え方を押し付けられてイライラしながら無言になる
- 些細なことで感情的になる妻の顔色を伺っている
- 愚痴ばかりの友達から毎日のようにメールがきて返さないといけない
幼少期の親子関係等の影響から感情を押し殺す習慣を続けてきた人ほど、嫌だと思う感覚が麻痺していますので「ちょっと嫌かもしれない」というくらいのことから拾わないと出てこないかもしれません。
まずは「こんなにも嫌なことを我慢してるんだな」と気付き、少しずつ我慢を減らしていくことを心がけてください。
考え方の視野を広げて多角的に物事を捉えられるようにする
自暴自棄になっている方は、自分の考えに固執して視野が狭くなっている傾向が見られます。
自分の考えに固執している状態ではどうしても自分勝手に考えてしまうため、些細なことにイライラしてストレスを抱えやすくなります。
この状態から抜け出すためには、相手の価値観や考え方に疑問を抱き、どういう思いでやったのかを日々考えていくことが大切です。
- 親がしつこく干渉してくる親はどういう思いで干渉してくるのか?
- 妻がどういう気持ちになって感情的に怒るのか?
- 友達がどういう気持ちで自分のことを心配してくれるのか?
本当の意味で相手の立場になって考えることができたり、多角的に物事を捉えられるようになれば、身勝手に考えてイライラすることがなくなります。
原因として、生まれ育った家庭環境や生まれつきの脳の働き等が考えられますが、何が原因なのか明確にしていくことも的確に対処するためには必要だといえます。
無自覚の自暴自棄を改善するためにはカウンセリングが必要
上記の対処法は有効なのですが、大前提として自分が自暴自棄になっていると認識することが必要です。
そもそも、自分が危険な状態になっていると気付けない人は対処しようとすらしません。当然ですよね。
自覚できていない状態であっても、莫大なストレスによって何かしらの症状が表面化しますので、その症状を足がかりに原因となっている根本的な問題に目を向けていけば気付くことができます。
しかし、根本的な問題であればあるほど自分で見れない状態になっているため、カウンセリングを受けて見れる状態に軌道修正してもらうことはどうしても必要だと感じています。
誰かに言われたとしても自分が違うと思っていれば聞き入れませんし、反発する気持ちが出てくると素直に聞けなくなったりするから気付きようがないんですよね。
この自覚できない無意識に気付けるよう、対話でサポートしていくところにカウンセリングの必要性があります。
とくに親子関係から生み出された行動の習慣や考え方は自覚しづらく、怒りや悲しみの感情を抑え込んで莫大なストレスを抱え込んでいるにもかかわらず何故かしんどさを感じないなんてケースもよくあります。
本質的な問題は無自覚の部分にあり、まずはそこに気付くことが大切です。
制御不能の家庭内暴力や犯罪行為に至ってからカウンセリングを受けに来られる方が多いですが、取り返しのつかない問題を起こしてしまう前にご相談ください。
本人が自覚できない性質がありますので、ご家族の方も含めて気付いていただければと思っております。
無自覚の問題に気付くカギは矛盾
自分を偽って誤魔化していると何かしらの矛盾が出てきます。
以下のやりとりをご覧ください。
カウンセラー:「人とどういうかかわりができれば理想的ですか?」
クライエント:「職場の人に気を遣わず仲良く楽しく話せるようになりたいです。」
カウンセラー:「職場の人に自分の話ってされてますか?」
クライエント:「一切してません。職場の人に本当の自分は絶対に見せたくないんです。」
このAさんの2つの発言を合体させてみると「職場の人に本当の自分を絶対に見せずに仲良く楽しく話せるようになりたいんです。」になりますよね?
これって完全に矛盾してるんです。
本当の自分を絶対に見せようとしないほどに壁を作っている人と気を遣わない仲になんてなれるわけないじゃないですか(笑)
自分を偽っている人の話を聴いていると、このような矛盾がいくつも出てきます。
「一人の方が楽だし人と関わりたくないんですけど、人からどう見られてるか異常に気になるんです。」というのは、人と上手くかかわれないから本当はかかわりたいのに一人の方がいいと自分を偽っている。
「もう母は私のことを理解してくれないって諦めてるんですけど、母のことを考えると無性にイライラするんです。」というのは、本当は母親に理解して欲しいのに諦めるしかないと無理やり自分を納得させている。
自分の心を偽り続けてきた人ほどこういった本音を見つけるのは難しいですが、カウンセリングで本音や感情に焦点を当てて矛盾とぶつかりながら少しずつ気付けるようになっていきます。
自分を誤魔化して葛藤を避ければ避けるほどストレス耐性が低くなり、些細なことにストレスを感じやすくなるため、しっかり向き合っていくことが必要です。