対人恐怖症のつらさを我慢しながら仕事をしている人は「このまま続けた方がいいのかどうか」、今から仕事に就こうと考えている人は「どんな仕事を選べばいいのか」といったことで悩んでおられることと思います。
就活で大学側からあっせんされて、でも自分では何をしたいかわからなくて。
そもそも仕事ができると思えない状態の人も多いでしょう。
実際にカウンセリングを受けている方から、休職している今の仕事を無理やり続けた方がいいかどうか、アルバイトをしようと思うけど仕事はどんなのがいいかといったご質問をいただくことは多いです。
対人恐怖症と仕事
対人恐怖症でも仕事はした方が良いのか?
そもそもの話になりますが、対人恐怖症で悩んでいる人は可能なら仕事をした方がいいと思います。
なぜなら、仕事をすることによって必然的に人とかかわる機会を得ることができるからです。
仕事をせず人とかかわる機会を作らなければ不安や恐怖を感じずに済むので、今の時点ではつらさや苦しさから逃れることができますが、人とかかわる機会を避けてばかりいると自分を苦しめる間違った考え方がどんどん膨らんで対人恐怖症は悪化していきます。
ただ、対人恐怖症の症状が重度でどうしても仕事ができない場合は無理をしてまでやる必要はありません。
その場合はカウンセリングを受けて、自分の本音に気付きながら行動して仕事ができる状態にしたり、以前の職場と同じような失敗を繰り返さないような準備をしっかりしていくことから始めましょう。
対人恐怖症の人が仕事を始める際の注意点
パートやアルバイトであっても仕事をするというのは対人恐怖症の人にとって非常に大変なことです。
にもかかわらず、対人恐怖症を克服しようと意気込んで接客の仕事をやってしまう人は多いですが、頑張れば頑張るほど上手くいかなくなって余計に対人恐怖症を悪化させてしまうことになりかねません。
あまり人とかかわらないような仕事を短い時間で週1、2回でもして人とかかわる機会を作る。
そして、少しずつ時間や頻度を増やしていく形が一番良いと思います。
私も過去対人恐怖症だった頃にアルバイトをしていましたが、夏休みの学校の掃除、百貨店の配送センターでお中元の仕分け業務、飲食店での配膳・片付け、総菜屋での洗い場・調理・片付けといった裏方の仕事しかできませんでした。
ハッキリ言ってどのバイト先でも無口で暗いという印象で誰ともほとんど話せなかったのですが、それぞれのバイト先で何かしらの対人経験を積むことはできたと思っています。
実際に対人恐怖症で悩んでいる人はどんな仕事をしているのか?
なるべく人と話さなくて済む事務や作業系の仕事をしているケースが多いです。
- 経理事務
- データ入力
- ファイル整理、コピー
- 梱包や仕分け、ピッキング等の構内作業
- 検品、シール貼り
- 袋詰め等の軽作業
- 工場内での製造補助
- イベントの搬入搬出
- ビルの清掃
- 警備員
- スーパーの品出し
- ホームセンターの商品管理
- ホテルの客室清掃、ベッドメイク
- トラックドライバー
- 飲食店の厨房、洗い場
対人恐怖症と接客業
対人恐怖症は接客の仕事をやれば克服できるのか?
対人恐怖症で悩んでいる人が克服するために接客の仕事をしてみようと思うことはよくあります。
「接客業のバイトをしてみたほうがいいでしょうか?」とご質問いただくことも多いですね。
私自身も話さざるをえない環境に身を置くことで克服しようと、飲食店のバイト、営業の仕事をやっていた時期があります。
最初にやってみた飲食店のホールスタッフでは悪化。
次にチャレンジした飲食店の調理では自分から話すことはなかったものの改善。
営業の仕事では自分から話しかけられるようになったり経験を重ねるごとに改善していきました。
接客の仕事をやってみたらどんどん人とかかわることに怖さを感じなくなってきて克服に向かったケースもあれば、逆に全然上手くいかなくてやっぱり自分はダメなんだと自信を失って悪化したケースもある。
頑張って接客業をやれば必ず対人恐怖症が克服できるという単純な話ではありません。
接客業をやってみて扁桃体の過剰反応が強まるか弱まるか
対人恐怖症は脳内にある扁桃体の過剰反応により引き起こされています。
身の危険が迫っているときに扁桃体が反応するのは当然ですが、対人恐怖症になっていると危険ではないはずのことにも警報を鳴らしてしまう。
頭では大丈夫とわかっていても危険を察知した状態になってしまうため不安や恐怖を感じます。
対人恐怖症は扁桃体の過剰反応が弱まれば克服へと向かい、強まれば悪化してしまうのです。
接客の仕事をしてみて「意外と大丈夫だったな」「話してみれば何とかなるもんだな」と思えれば扁桃体の反応は弱まる。
繰り返していくうちに不安や恐怖を感じることが減って改善していく。
逆に「やっぱり上手くいかなかった」「思っていた以上に自分は人と話せないんだ」と思えば扁桃体の反応が強まってしまう。
今まで以上に反応しやすくなるから不安や恐怖を感じやすくなって対人恐怖症が悪化するのです。
接客業で対人恐怖症を克服できるかどうかは自分の状態から推測できる
扁桃体の過剰反応を弱めていく心理療法に暴露療法(エクスポージャー法)があります。
ざっくり言うと、不安や恐怖を感じる場面に少しずつ自分をさらしていくことによって慣らす方法です。
実際にやってみて「大丈夫だった」をどれだけ重ねられるかがポイントなので、取り組むことは今の自分が少し頑張ればできるくらいで設定します。
話しかけてもらって頷くのがやっとの人が自分から話しかけるとなれば、ハードルが高すぎてほぼ間違いなく失敗しますよね。
つまり、接客業が少しハードルを上げればできるくらいなら克服に向かう可能性は高く、ハードルがめちゃくちゃ高いなら悪化しやすいということ。
赤の他人となら頑張れば話せるくらいの人が接客の仕事をやると改善する可能性は高い。
誰と話すにしても緊張しすぎて声が出せないレベルの人が接客の仕事をすれば悪化する危険性が高いでしょう。
わかりやすい例を挙げましたが、自分の状態がどれくらいなのか自分ではわからない人が多いと思います。
対人恐怖症の状態で自分を客観視するのは難しいですからね。
カウンセリングで状態をお聴きした上であれば、接客業をやってみたほうがいいかどうかお伝えすることは可能です。
接客の仕事をするにあたって、過去の記憶を再評価して自信を取り戻したり、対処法の準備やイメージ法等で不安や恐怖を感じづらい状態にしたりすることもおこなっています。
対人恐怖症の影響で面接に行けない方へのアドバイス
頑張りすぎが逆効果になることも
対人恐怖症の影響で応募したい会社に電話ができないし、情報を取り入れすぎて身動きが取れなくなってしまって、どうしようもなく不安な気持ちになることはあります。
「落ちてはいけない、合格しなければならない」という思いにとらわれているがために、「うまく話さなければ、失敗してはいけない」という気持ちが強化されてしまう。
とくに「良いなぁ」と思ったところにはその気持ちが強くなるから、よけいに応募しづらくなるのは当然ですよね。
また、対人恐怖症で悩む人は真面目すぎる傾向があるので、その状況を解決したい、つまり「早く就職を決めたい」とものすごく頑張る。
しかし、その頑張りが逆効果になってしまいます。
頑張れば頑張るほど、面接官には「余裕がない、あせっている」ととらえられてしまうことが多いからです。
企業側の立場で想像してみる
就職をするにあたっては、応募先の企業がどういう理念を持っていて、どういう業務内容で、どういう取り組みをしているのか等を徹底的に調べる。
そして、どういう人に来てほしいと思うかを想像してみましょう。
想像できたら自分に当てはまる部分がないかを探します。見つかったことと自分の体験をつなぎ合わせて面接でアピールする。
そのアピールが面接官に伝われば当然「こんな人を探してたんだ」となり採用につながりやすいわけです。
最初のうちは想像してみても、的外れになる場合もありますが、相手の立場で考えることというのが今後の対人恐怖症克服にもつながります。
客観的な視点は対人恐怖症克服にもつながる
相手に気を遣うのと相手の立場で考えるのは似て非なるもの。
相手に気を遣う場合は自分の主観が強いですが、相手の立場で考える場合は自分の主観は弱く、客観的な視点を持たなければできません。
客観的な視点を持つことは非常に重要です。
例えば、「人前で緊張しすぎて話せなくなる、電話ができなくなる」という場合、自分に対して強い意識が働いています。「変に思われるんじゃないか、失敗するのではないか」と。
でも、他人から見ればとくに問題もなく普通に見えていたり。自分への間違った認識を変えていく上で必要となるのです。
対人恐怖症克服につながることも踏まえてやっていただくといいかなと思います。
本当は自分がやりたい仕事をやるのが一番いい
対人恐怖症の状態であればという前提で仕事の話をしてきましたが、本来は自分がやりたいと思う仕事をするのがベストです。
ただ、日々の症状に悩まされて「相手にどう思われるか、どう見られるか」ばかり考えている状態では、自分がやりたいことが何なのかすらわかりません。
思考が他人や世間一般の基準に支配されていますからね。
カウンセリングを受けながら無意識に抑え込んできた自分の本音に気付き、本音に従った行動を少しずつ繰り返していく中でやりたいことが見えてきます。
仕事というのは人生の大部分を占めるものであって、自分が稼がないと生活できない人にとっては必須のものです。
転職を繰り返して年齢を重ねていくと就職できる先もどんどんなくなってどうしようもない状態になりますから、仕事の内容や始める時期など慎重に判断してしっかりと準備をした上で仕事をするようにしてください。
対人恐怖症の状態で仕事をするとしてどんな仕事をどれくらいすれば良いか、タイミングとして今仕事を始めて良いのか等は個々の性質や症状によって変わります。
アドバイスが欲しい、次の職場では絶対に同じ失敗を繰り返したくないという方はカウンセリングにお申込みいただければと思います。