会話が苦手で人間関係に悩んでいませんか?
相手の話にどう反応すればよいのかわからない。自分の意見を言うと嫌われそうで、つい相手に合わせてしまう。何気ない会話なのに、意見が食い違うと気まずくなってしまう。
このような悩みを抱えていると、職場や日常生活で人とかかわること自体がストレスになってしまいます。
私自身、コミュニケーションが得意ではなく、社会人生活の中で人間関係に苦労してきました。その経験を通して学んだのは、コミュニケーションは話の面白さや流暢さだけで決まるものではないということです。
相手に共感していることを伝える、自分の気持ちを適切に表現する、そして、必要のない場面で相手と争わない。こうした工夫によって、人とのかかわり方は変わっていきます。
今回は、私自身の経験をもとに、会話が苦手な人が人間関係を円滑にするために知っておきたい3つのコミュニケーション術を紹介します。
1. 相手が話しやすくなる相づちのコツ
「ですよね」で共感を伝える
以前、保険会社に勤務していたとき、上司がよく使っていた言葉があります。それが「ですよね~」です。
お客さんの話を聞きながら、しっかりとうなずき、「ですよね~」と相づちを打つ。たったこれだけのことなのに、相手は気持ちよく話を続けてくれるのです。
当時の上司は、相手に話してもらうためのコミュニケーション技術を数多く持っていました。営業に同行した際には、お客さんが半日以上にわたって話し続ける場面を目にしたこともあります。
もちろん、相づちだけで相手が話し続けるわけではありません。質問の仕方や話を聞く姿勢など、さまざまな要素が関係しています。しかし、その中でも印象的だったのが、相手の気持ちを受け止めていることを態度で伝える技術でした。
人は、自分の話を理解しようとしてくれる相手に対して、安心感を抱きやすくなります。一方、自分の気持ちを否定されたり、話を聞いてもらえていないと感じたりすると、それ以上話すことをためらってしまうことがあります。
例えば、相手が仕事の大変さについて話しているとします。
「最近、仕事が忙しくて本当に大変なんですよ」
このとき、「そうなんですね」と一言だけ返すこともできますが、相手の話に合わせてうなずきながら「ですよね~。それは大変ですよね」と返すと、話を受け止めていることが伝わりやすくなります。
会話が苦手な人は、何を話せばよいのかばかり考えてしまうことがあります。しかし、無理に面白い話をしたり、気の利いた返答を考えたりする必要はありません。
まずは相手の話を聞き、うなずきや相づちによって反応を返すことから始めてみましょう。
うなずきや相づちで話を聞いていることを伝える
自分では相手の話をきちんと聞いているつもりでも、それが相手に伝わっているとは限りません。
心の中で「それは大変だな」「気持ちはわかるな」と思っていても、無表情で黙って聞いているだけでは、相手はどのように受け止められているのかわからないことがあります。
人は、相手の内面を直接見ることができません。そのため、表情や声の調子、うなずき、言葉など、目に見える反応から相手の気持ちを推測します。
だからこそ、相手の話に関心を持っているなら、その気持ちが伝わるように反応することが大切です。
ただし、大げさにうなずけばよいというわけではありません。わざとらしい反応は、かえって不自然な印象を与えることがあります。相手の話に合わせて、自然な範囲で反応を返すことを意識しましょう。
また、相手の話を聞くときは、無理に自分の意見を挟まず、相手が話し終えるまで待つことも大切です。途中で話を遮って自分の経験を話し始めると、相手は十分に聞いてもらえなかったと感じるかもしれません。
相づちやうなずきは、会話を盛り上げるためだけのテクニックではありません。相手の話を尊重し、安心して話せる雰囲気をつくるための方法なのです。
共感することと、相手に同意することは違う
相手に共感しようとすると、相手の意見に何でも賛成しなければならないと思う人もいるかもしれません。
しかし、共感することと、相手の意見に同意することは別です。
例えば、相手が職場の同僚に対する不満を話しているとします。自分はそこまで悪い人だと思っていなくても、相手が嫌な思いをしたこと自体は受け止められます。
「そんなことがあったんですね」
「それは嫌な気持ちになりますよね」
このように返せば、相手の考えを全面的に肯定しなくても、気持ちを理解しようとしていることを伝えられます。
反対に、相手の話を聞くたびに「でも、それは違うと思います」「あなたにも問題があるのでは」と返していると、相手は自分の気持ちを理解してもらえないと感じるかもしれません。
もちろん、相手の言い分がすべて正しいとは限りません。しかし、相手が何を感じ、なぜそう考えているのかを理解することと、その意見を正しいと認めることは別の問題です。
まずは相手の気持ちを受け止め、そのうえで必要に応じて自分の意見を伝える。この順序を意識するだけでも、会話の雰囲気は変わっていきます。
2. 自分の意見を伝えるIメッセージの活用法
嫌われることを恐れると自己主張ができなくなる
会話が苦手な人の中には、自分の意見を伝えることに強い抵抗を感じる人もいます。
「こんなことを言ったら嫌われるのではないか」
「自分の意見を言うと、変な人だと思われるのではないか」
「断ったら相手を怒らせてしまうのではないか」
このような考えが浮かぶと、本当は嫌だと思っていても断れなかったり、自分の意見を飲み込んで相手に合わせたりしやすくなります。
その場では相手との衝突を避けられるかもしれません。しかし、自分の気持ちを抑え続けていると、不満やストレスが蓄積し、人付き合いそのものが負担になってしまうことがあります。
また、相手に合わせることが習慣になると、自分が何をしたいのか、何を嫌だと感じているのかさえ、わかりにくくなる場合があります。
良好な人間関係を築くためには、相手を尊重するだけでなく、自分の気持ちや意見も大切にする必要があります。
そこで役立つのが、Iメッセージというコミュニケーション方法です。
Iメッセージで自分の気持ちを伝える
Iメッセージとは、「私」を主語にして、自分の気持ちや考え、希望を伝える方法です。相手を責めたり、一方的に行動を要求したりするのではなく、自分がどう感じているのかを伝えることを重視します。
例えば、仕事が忙しく、誰かに手伝ってほしいときに、次のように伝えたとします。
「手が空いているんだったら手伝ってよ」
この言い方では、相手の状況を決めつけたり、手伝うことを当然のように要求したりしている印象になる可能性があります。
そこで、Iメッセージを使って次のように伝えます。
「今、私は仕事が立て込んでいて大変だから、手伝ってもらえると助かるんだけど、お願いできないかな?」
このように、自分の状況や希望を伝えたうえでお願いすると、相手も話を受け止めやすくなります。
もちろん、Iメッセージを使えば必ず相手が要求を受け入れてくれるわけではありません。しかし、自分の気持ちを伝えながら相手の意思も尊重できるため、不要な衝突を減らすうえで役立ちます。
Iメッセージのポイントは、相手の性格や行動を決めつけるのではなく、自分がどう感じているのか、どうしてほしいのかを具体的に伝えることです。
「あなたはいつも協力してくれない」と相手を責めるのではなく、「一人では大変なので、少し手伝ってもらえるとうれしい」と伝える。こうした表現の違いを意識してみましょう。
断るときも相手を責めずに意思を伝える
Iメッセージは、頼み事をするときだけでなく、何かを断るときにも活用できます。
例えば、仕事が終わったあとに同僚から飲みに誘われたものの、疲れていて帰りたいとします。
このとき、「今日は行きたくない」とだけ伝えると、相手によっては拒絶されたように感じるかもしれません。
そこで、次のように伝えてみます。
「誘ってくれてありがとう。今日は疲れているから、家でゆっくり休みたいんだ。また機会があったら行こう」
相手からの誘いに感謝を示しながら、自分の気持ちを伝える方法です。
ただし、断る理由を細かく説明したり、相手に納得してもらえるまで説得したりする必要はありません。自分の都合や希望を伝え、必要であれば簡潔に断ってもよいのです。
また、相手が不満を示したからといって、必ずしも自分の伝え方が間違っていたとは限りません。相手の気持ちを尊重することと、相手の望みをすべて受け入れることは違います。
今まで自己主張をしてこなかった人にとって、自分の希望を伝えることは簡単ではないかもしれません。まずは、日常の小さな場面で自分の気持ちを言葉にすることから始めてみましょう。
自己主張は相手を言い負かすことではない
自己主張という言葉を聞くと、自分の意見をはっきり言うことや、相手に負けないように主張することをイメージする人もいるかもしれません。
しかし、健全な自己主張とは、自分の意見を一方的に押し通すことではありません。自分の気持ちを大切にしながら、相手の気持ちや権利も尊重することです。
自分の意見を伝えた結果、相手が不満を感じることもあるでしょう。それでも、相手が不満を感じたからといって、自分の伝え方が必ず間違っていたとは限りません。
大切なのは、相手の反応をすべて自分の責任だと考えないことです。相手に配慮しながら伝え方を工夫することはできますが、相手がどう受け止めるかを完全にコントロールすることはできません。
相手に嫌われないことだけを目標にするのではなく、自分の気持ちも大切にしながら、無理なく付き合える関係を目指してみましょう。
3. 人間関係を円滑にするための会話のコツ
正しいことを言えば人間関係が良くなるとは限らない
コミュニケーションでは、事実を正確に伝えることが大切な場面があります。一方で、何気ない雑談では、正しさを追求することが必ずしも良い結果につながるとは限りません。
例えば、京都と兵庫のどちらが都市として発展しているのか、という話題になったとします。
人口で比較するのか、都市機能や観光、歴史的な役割などで比較するのかによって、評価は変わる可能性があります。何を基準にするかが違えば、同じ質問に対して異なる答えが出てくることもあるでしょう。
このような日常会話では、どちらが絶対に正しいかを決めることよりも、相手が何を話したいのかを理解することが大切な場合があります。
ところが、会話が苦手な人の中には、相手の発言に間違いがあると、それを訂正せずにはいられない人もいます。自分が正しいと思うことを伝え、相手が反論すると、さらに説明して納得させようとしてしまうのです。
もちろん、間違いを指摘すること自体が悪いわけではありません。仕事上の重要な判断や、安全にかかわる問題など、正確さが必要な場面では、事実を確認することが欠かせません。
しかし、ちょっとした雑談や、どちらの考え方も成り立つような話題であれば、毎回結論を出す必要はありません。
正しいことを言うことと、良好な人間関係を築くことは、必ずしも同じではないのです。
相手の基準や考え方を理解する
私自身、以前、投資用不動産の会社に勤務していたときに、このことを実感する出来事がありました。
ある休憩時間に、上司から「京都と兵庫、どっちが都市か知ってるか?」と聞かれました。
私は人口を基準に考えていたため、「兵庫です」と答えました。ところが、上司は「京都だ」と主張しました。
私は自分の認識が正しいと思っていたため、上司の意見に反論しました。しかし、上司が何を基準に京都のほうが都市だと考えていたのか、きちんと確認しようとはしていませんでした。
結果として、お互いに自分の考えを主張し合い、関係は気まずくなっていきました。その後、私は上司から説教を受け、暴力を振るわれることもありました。
もちろん、意見が食い違ったからといって、暴力が正当化されるわけではありません。暴力を振るう責任は、振るった側にあります。
ただ、この経験から学んだのは、何気ない会話であっても、自分が何を目的として話しているのかを意識する必要があるということです。
そのときの私は、相手と楽しく会話をすることよりも、自分の認識が正しいことを証明することに意識が向いていました。
もし、相手が何を基準に話しているのかを聞いていれば、違った展開になっていたかもしれません。
例えば、「京都のほうが都市だと思うんですね。どういうところからそう思うんですか?」と聞けば、相手の考えを知ることができます。
相手の考え方を理解することと、自分の考えを捨てることは違います。相手の意見に納得できなくても、すべての場面で反論する必要はないのです。
社交辞令や言葉の配慮を活用する
嘘や社交辞令は、一般的に良くないものとして扱われがちです。しかし、人間関係を円滑にするための言葉遣いや、相手への配慮まで否定する必要はありません。
人は、いつも正しい情報を得るためだけに会話をしているわけではありません。自分の経験を話したい、知っていることを共有したい、誰かと楽しく過ごしたい。会話には、情報交換以外にもさまざまな目的があります。
例えば、相手が自分の経験や知識を披露したい様子で話しているとき、毎回細かい間違いを指摘してしまえば、相手は気持ちよく話せなくなってしまうかもしれません。
そのような場面では、「そうなんですね」「なるほど、そういう考え方もあるんですね」といった反応を返し、相手の話を聞くことが適切な場合もあります。
また、誰かから贈り物をもらったときに、感謝の気持ちを込めて「ありがとうございます。うれしいです」と伝えることも、相手の気持ちを大切にするコミュニケーションです。
ただし、知らないことを知っていると偽ったり、事実に反することを無条件に認めたりする必要はありません。
相手の意見に全面的に同意できない場合でも、「そういう見方もあるんですね」「その基準で考えると、そうなるんですね」と返すことはできます。これなら、自分の考えを保ちながら、相手の話を受け止められます。
人間関係では、正直であることと、思ったことをすべてそのまま口にすることは同じではありません。
相手に伝える必要があることなのか、今ここで指摘することに意味があるのか。それを考えるだけでも、コミュニケーションの仕方は変わっていきます。
なお、相手を傷つけないための配慮と、相手をだましたり、自分の利益のために利用したりすることは別です。社交辞令を活用する場合も、相手への敬意を忘れないことが大切です。
4. 会話が苦手な人が意識したいこと
相手に合わせすぎず、自分の気持ちも大切にする
ここまで、相手が話しやすくなる相づち、自分の意見を伝えるIメッセージ、そして、意見の食い違いを必要以上に大きくしないための考え方を紹介しました。
これらに共通しているのは、相手の気持ちを考えながら、自分の考えや気持ちも大切にするということです。
会話が苦手だと、相手にどう思われるかが気になって何も言えなくなったり、逆に自分の正しさを証明しようとして衝突したりすることがあります。
しかし、人間関係は、相手に合わせ続けても、自分の意見を押し通しても、うまくいくとは限りません。
相手の気持ちを理解しようとすること、自分の気持ちを適切に伝えること、そして必要のない場面では意見の違いをそのままにしておくこと。このバランスが大切です。
相手に合わせることが苦手な人もいれば、自分の気持ちを伝えることが苦手な人もいます。どちらが正しいということではなく、自分がどのような場面で困りやすいのかを知り、それに合った方法を試していくことが重要です。
小さなコミュニケーションから実践する
コミュニケーションのコツを知っていても、実際の会話で使うのは難しいものです。
相手の反応が気になって言葉が出てこなかったり、会話が終わったあとに自分の発言を何度も思い返したりすることもあるでしょう。
最初からすべてを上手にこなそうとする必要はありません。
まずは、相手の話に一度うなずいてみる。自分の希望を一つ伝えてみる。何気ない雑談で、あえて反論せずに相手の話を聞いてみる。
そんな小さな行動から始めてみましょう。
ただし、こうしたコツを知っていても、相手の反応が怖くて言葉が出てこなかったり、人と話すたびに強い緊張や疲労を感じたりすることもあります。
その場合、単に会話の技術が不足しているのではなく、嫌われることへの不安や、自分に対する評価の厳しさ、これまでの人間関係で経験してきたことなどが影響している可能性もあります。
コミュニケーションの技術を身につけることに加えて、なぜ人とのかかわりに苦労するのか、自分の考え方や感情の傾向を理解することも役立ちます。
無理に別人のように振る舞うのではなく、自分の特徴を理解しながら、少しずつ人とのかかわり方を変えていきましょう。
