「相手の目を見ようとするとどうしても睨んでしまうんです…だから、できるだけ目を合わさないようにしてるんですけど、ちゃんと目を見て話さないと失礼じゃないですか?どうすれば睨まずに目を合わせられるようになるのでしょうか?」
「相手の胸元を見てはいけないって思うのにどうしても見てしまうんです。頭ではわかっているのに止められません。どうすればいいのでしょうか?」
対人恐怖症の一種である自己視線恐怖症で悩んでいる方からよくこういった内容のご相談を受けます。
自己視線恐怖とは,特定の対人状況において自己の視線が異様な鋭さ,ないしは醜さを発し,それゆえに全面する他者を傷つけ不快にすると信じ悩む病態であり,鋭すぎる,きつすぎる,いやらしいなど自分の視線に対する悪しきイメージを抱き,その視線が他者に悪しき影響を与えてしまうことへの恐怖感を訴えるものである。そのため他者がなんらかの反応をしているという確信を抱きやすいという点で関係妄想性を帯びているのも特徴である。
人を睨んでしまう、不快な思いをさせてしまうと恐れるあまり、自分の意志で視線がコントロールできなくなっているのです。
強迫観念のような感覚になっていますので、他者視線恐怖症や正視恐怖症に比べて症状が重く、脇見恐怖症と近いところがあります。
人を睨んではいけないのに睨んでしまうメカニズム
人間には「やってはいけない」と禁止されればされるほどやりたくなってしまう性質があります。
「決して開けないでください」と言われたはずの玉手箱を開けてしまった浦島太郎の話は有名ですよね。
これはカリギュラ効果、心理的リアクタンスとも呼ばれるものですが、脳の働きから考えれば当然と言えます。
そもそも人間の脳は禁止を認識することができません。
「郵便ポストを想像しないでください」と言われたらどうでしょう?
すでに郵便ポストが想像されてしまっていますよね。
「人を睨んではいけない」というのは「人を睨め」と同じ。
だから「睨んではいけない」と思えば思うほど睨んでしまうわけです。
睨んではいけないと思う背景には「他人に迷惑を掛けてはいけない」といった固定観念、不安だから見たくなってしまう感情の動きがあります。
相手を見ることも見ないこともできないジレンマ
見てはいけないとわかっているけど気になるから見てしまう。
相手を見ずに話すわけにはいかず頑張って見ようとするけど、見たら相手を睨んでしまうからどうしようもない。
結局はできるだけ相手を見ないようにしながら頑張ってたまに見るという行動になります。
相手を見ないようにしていると相手に失礼だと思われる。(人間関係が築けない)
相手を見るという行動をとったとしても睨んでしまう、見てはいけないところを見て嫌がられてしまう。
どちらを選択してもよからぬ結果になるわけですから、どちらを選ぶにも選べないジレンマに苦しむのが自己視線恐怖症の特徴です。
人を睨んでしまうのは感情を抑え込んでいるから
普段から良い人であろうとするあまり、自分の中にある怒りや嫌悪などの感情を抑圧。
周りに合わせてばかりで我慢をさせられていることへの不満や怒りが自覚できないまま蓄積されています。
自己臭・自己視線恐怖の特徴を,現実の臭いや視線に対する他者反応を冷静に判断するための主体性消失,証拠もないところでの他者行動の悪意的解読の現象にあるとし,これは本人の”他者に対する強い敵意感”が顕在化したもので,自己主体性・他者との相互信頼感が強く歪んだ状態であるとしている。
あって当然の感情を抑圧して感じないようにしているから他人に投影されてしまう。
他人が自分の視線を嫌がっていると思うのは、自分が他人を嫌がっている気持ちの表れなのです。
「睨んでしまう」という感覚からしても、不満や怒りの感情が影響しているのは間違いありません。
自分が我慢して丸く収まるならいいと思っていませんか?感情の抑圧は自覚がないまま大きな問題を引き起こしています。
無意識に人を睨んでしまう自己視線恐怖症を克服するために
人を睨んでしまう原因として感情の抑圧があるので、まずは自分が感情を抑え込んでいる事実を認識することが必要です。
何に対して不満を抱いているのか?誰に対して怒りがあるのか?本当は嫌だと思っているのではないか?
無意識になっていて難しいのですが、カウンセリングで自分自身と向き合うことで少しずつ認識できるようになっていきます。
ただ、悩んでいる期間が長ければ長いほど「見てはいけない」という考えが強烈に染み付いてますから、視線へのとらわれはなかなか変わらないんですよね。
見てもいい理由を考えてみたり、見てしまっても大丈夫だと言い聞かせてみたり、わざと見て相手の反応を確認してみたり…「見てはいけない」という考えに直接アプローチしてもほとんど効果はありません。
カウンセリングでは、視線と関係ない小さな固定観念を崩しながら、視線にこだわりすぎる主観的な思考を客観的に見れる状態にしていきます。
実際の人とのかかわりで今まで抑え込んできた感情を表現できるようになり、問題なく人間関係を築いていけることを実感できたとき自己視線恐怖症は改善するのです。
自己視線恐怖症は自分では気付けない無意識レベルの問題が原因になっているので、自力で何とかしようと間違った方向で頑張る前にカウンセリングを受けてください。