
脇見恐怖症で悩んでいる人は、自分が脇見をすることで相手に嫌な思いをさせていると思っています。
自分がいる方の視界を手で遮られる、ため息をつかれる、舌打ちをされる、咳払いをされる、悪口を言われる…
脇見をしたときに相手が何かしら不快な反応を示しているように見えるからです。
明らかに自分の脇見で反応しているのに、家族や友人に話してみても「勘違いじゃない?」「被害妄想だよ」と言われて終わり。
脇見恐怖症で他人が反応するのは本当にただの勘違いなのでしょうか?
カウンセリングで対応してきた経験から実情をお伝えしていきます。
脇見恐怖症で悩む人の感覚は勘違いではなく確信
脇見恐怖症で悩んでいる人は自分の視線が相手に迷惑を掛けていることを確信しています。
臨床経験が浅い頃、脇見恐怖症の方とのカウンセリングで以下のようなやり取りになってしまうことがありました。
相談者:「脇見をしてしまうのがやめられないんです。相手を見たくないのに見て嫌な思いをさせてしまいます。」
カウンセラー:「相手の方はどんな反応をしているのでしょうか?」
相談者:「落ち着きがない感じになって咳払いをしてきたりします。」
カウンセラー:「そうなんですね。脇見とは関係なく相手がそういう状態になった可能性は考えられないでしょうか?例えば、急に喉がイガイガしてきて咳をし出したとか。」
相談者:「いや、それはありません。私が脇見をしたときに咳払いをし始めるので。」
カウンセラー:「そうだったんですね。脇見以外のことが影響した可能性は絶対にないということでしょうか?」
相談者:「そうです。」
カウンセラー:「・・・(え?言い切れるの?)」
相談者:「どうすれば迷惑を掛けないように視線をコントロールできますか?」
カウンセラー:「・・・(う~ん困った、どうしよう)」
相手がどういう理由で行動したのかある程度は想像できますが、直接確認したわけでもないのに断言することはできません。
ましてや偶然電車で居合わせたような見ず知らずの人であれば余計にわからないですよね。
脇見をしたことが原因だと言い切れる時点で認知(物事の捉え方)に歪みが生じていると言えます。
なぜ脇見が原因だと確信する認知の歪みが生じるのか?
因果関係を一対一で捉えている
「自分が脇見をしたから相手が反応した」というのが脇見恐怖症で悩む人の感覚です。
「自分が脇見をしたこと」が原因で「相手が反応したこと」が結果になります。
しかし、どんなことにも言えるのですが、物事の因果関係というのは一対一ではありません。
以前マクドナルドの店内で食事をしたときのことです。
私がカウンター席に座った途端、隣にいた大学生くらいの男性が物を叩きつけるように置き、「あー」と苛立った声を上げて帰っていくことがありました。
脇見恐怖の人なら「自分が脇見をしたせいで相手が怒って帰った」と思うでしょうが、私は脇見をしていないので別の原因を考えました。
- 勉強か何か上手くいかないことがあってイライラしていた
- 隣の席が2つ空いているのに自分の方に詰めて座られたのが嫌だった
- 私が視界に入ったことで集中できなくなってイライラした
- 店内が混んでいることにイライラしていた
- 体調が悪くてイライラしていた
いくつか挙げましたが、どれか一つだけが原因とは言えません。
結果は様々な原因が重なって生まれています。
にもかかわらず、脇見のせいだと原因を一つだけにするから認知が歪んでしまうのです。
確証バイアスで脇見の裏付けばかり抽出している
脇見をしたことで相手が何かしら反応すると言う人は多いですが、確証バイアスの影響が大半であると言えます。
確証バイアスは社会心理学の用語で『思い込みの強化』を意味しており、自分が思い込んだ内容を裏付ける情報ばかりに目を向け、逆に否定する情報はスルー、どんどん自分の思い込みを確信へと変えていくものです。
視界に入っている人が咳払いをした、電車で隣に座っていた人が別の席に移動した、隣の席の子が自分の視線を遮るように肘をついている等。
人が視界に入っていて何も起こっていないときもあるはずなのに、それはすべて見落として相手の反応が変わったと感じたときだけをピックアップしてしまう状態になっているのです。
「直接見なかったとしても電波を飛ばしているから不快な思いをさせるんだ」という主張は、人間の視線に対する幻想が肥大化したものではないかと思っています。
脇見を気にするあまりキョドキョドして不自然な態度をとっていたり、不安や緊張で違った雰囲気を出したりしているために変な目で見られることが、もしかするとこの電波という表現に該当するのかもしれません。
脇見恐怖症で悩んでいる人はこのバイアスの影響によって薬を飲んで不安が和らいでも、脇見をしてしまうこと自体は変わらないと言われるケースがほとんどです。
脇見恐怖症を客観的に見た事実
脇見恐怖症を客観的に見たとき、以下の3つの可能性があると考えられます。
1.相手が視界に入っているだけで見ていない
ジーっと見続けていたり、チラチラと頻繁に見ていたりしたら相手に嫌な思いをさせてしまう可能性はあるでしょう。
しかし、脇見恐怖症の人は基本的に見ることができません。見ていないケースがほとんどなのです。
電車に乗っていても見ていると勘違いされたくないから顔が上げられず、すれ違う人が気になっても見ることができない。
実際に見たとしてもチラッと盗み見るくらいか、意識が向くとか視界の端に入るとかのレベル。
それに相手がどれだけ気付いて反応できるのでしょうか?
なかなか難しいですよね。
例えば、電車やカウンター席で横並びになれば、誰もが視界の端に隣の人を入れてしまいます。
相手は視界に入れられたことに気付けるでしょうか?
たまたま隣の人がスマホでやっているゲームをチラッと見たとして相手は気付くでしょうか?
意識が相手に伝わるのはありえないし、チラッと見ただけで気付かれる可能性もほとんどありません。
つまり、相手は脇見されたことすら認識していない可能性が高いということです。
実際に自分をスマホで撮影してみたら脇見をしていなかった、脇見恐怖症の人同士で確認し合ったら見られていると感じなかったという話はよく聞きます。
2.脇見以外の態度や雰囲気で不快な思いをさせている
だからといって、脇見恐怖症の人が相手を不快にさせていないとは言い切れません。
脇見恐怖症で悩んでいることによって何かしらの問題が出てくるからです。
- 相手に緊張が伝わって居心地を悪くさせる
- 脇見をしないようにと意識するあまり態度が不自然
- ソワソワしていて落ち着きがない
- 怒りの感情が無意識に出て相手を不快にさせる
- 自分のことに精いっぱいで思いやりの気持ちを持つ余裕がない
- 過剰な気遣いで相手に負担をかける
- 何でも他人任せで自分の意思を示さない
- プライドが高く些細なことに執着しやすい
妄想ではなく実際に悪口を言われたり、嫌がらせを受けたりする人は、自覚できないところで相手を不快にさせている可能性があります。
まだ人とかかわれば誤解が解ける可能性はありますが、自分は嫌われていると思うから人とのかかわりを避けてしまう。
人とのかかわりを避けて壁を作っている状態なので、周りからすると話しかけづらい。
話しかけてくれないことも「脇見で嫌われているからだ」と勘違いして、人間関係を悪化させてしまう傾向が見られます。
3.実際に相手を見て嫌な思いをさせている
私が今まで対応してきた事例や他の情報から考えて脇見恐怖症の人は、実際には相手をジロジロ見ておらず認知の歪みによって見ていると確信しているケースがほとんどです。
しかし、「見ないで欲しい」と直接言われた人が一定数いますので、絶対に勘違いだと言い切ることはできません。
見てはいけないと思えば思うほど見てしまう状態に陥っている人もいます。
女性の胸を見てはいけないと思っているのに見てしまい、相手に嫌がられてしまっている人がいたりしますからね。
実際に相手を見てしまっている人、見ていると確信している人の区別はつけようがありませんが、自分の視線のことばかり考えて悩んでいるのは同じです。
カウンセリングでは視線のことばかり考えて見えなくなっている問題に焦点を当て、脇見恐怖症の改善へと向けていきます。
脇見恐怖症でつらい日々を送っておられるようでしたら一度ご相談ください。