強迫性障害の原理や種類、克服に有効なこと、カウンセリングについてお伝えしています。
強迫性障害(OCD)とは?
強迫性障害(Obsessive Compulsion Disorder)は、考えやイメージがしつこく頭に浮かぶ「強迫観念」にとらわれ、それを打ち消すための行動を繰り返す「強迫行為」が止められず、日常生活に支障をきたす不安障害です。
以前は強迫神経症と呼ばれていたもので、発病する割合は人口の1~2%と言われています。
本人だけでなく家族など周りを巻き込んで疲弊していくケースは珍しくありません。
放置して期間が経過するほど悪化しやすく、うつ病等を併発することでさらに克服が困難になっていきます。
強迫性障害の原因
強迫性障害の発症は生まれ持った性質、生育歴、情報化社会など、複数の要因が影響していると言われますが、まだハッキリとした原因はわかっていません。
生まれ持った性質としては、こだわりの強さ、繊細さ、真面目さ。成育歴では愛着の問題。
インターネットやSNSの普及で不安を煽るような情報に触れる機会が増え、過度に自分や大切な人を守らなければいけないという防衛反応が働いている。
こういった要因が背景にある中で、仕事や人間関係のストレス、進学や就職等に伴う環境の変化が重なって発症に至るケースが多いようです。
日常的に虐待がおこなわれる家庭環境、パワハラが当然の職場環境等、常に危険がある状況下では発症せず、逆に危険がない安心できる環境で発症しやすい傾向が見られます。
強迫性障害が悪化していく原理
「玄関の鍵を閉め忘れたかもしれない」という強迫観念が出てきたとき、帰宅して鍵が閉まっていることを確認すれば安心できます。
しかし、家を離れたらまた「玄関の鍵を閉め忘れたかもしれない」という強迫観念が出てきて、もう一度戻って鍵が閉まっているかを確認する。
メリットが得られる、もしくは、デメリットが回避できる行動は繰り返すごとに強化されるため、強迫観念から逃れて一時的な安心感を得られる強迫行為はやればやるほど強化されてしまいます。
一回の確認で済んでいたことが二回、三回と増えていき、家族を巻き込んでの強迫行為がおこなわれる。
強迫行為の繰り返しによって強迫性障害は悪化し、生活に支障をきたす度合いが高まっていくのです。
強迫性障害の種類
不潔恐怖・洗浄強迫
ばい菌に汚染されているように感じ、手を洗い続けたり、汚いと思うものを極端に避けたりします。
加害恐怖・確認強迫
鍵の閉め忘れやガスコンロの消し忘れ等、自分の過失によって起こりうる損害を恐れ、確認行為を繰り返します。
車の運転中に人を轢いてしまったかもしれないと思い、確認しに戻ったりする人もいます。
疾病恐怖・洗浄脅迫
AIDS(エイズ)や梅毒等の感染症にかかってしまうのではないかと思い、血液を中心に感染の可能性があるものを異常に恐れる。
または、感染症にかかっていると思って他人に移してしまうことを恐れて過剰に消毒や洗浄をおこないます。
保存脅迫
大切な物を間違って捨ててしまうのではないか、後で必要になるのではないかと思うと物を捨てることができず溜め込みます。
写真を撮っておくことで物を捨てることができるようになる人もいます。
不完全恐怖
位置や順番がきっちりしていないと気が済まず並べ直します。
書き間違いが気になって何度も書き直す、言葉の意味がちゃんと理解できるまで調べ続ける等もあります。
数唱強迫
死を連想させる「4」や苦を連想させる「9」等、特定の数字を過度に意識してしまい、何か悪いことが起こるのではないかと思うあまり、極端にその数字を避けます。
縁起強迫
ふとしたタイミングで縁起の悪いことが頭をよぎり、自分や家族に災いが降りかかるのではないかと思い、そのイメージが消えるまでやり直したり、縁起の良い行動に変えたりします。
不道徳恐怖・懺悔強迫
他人を傷つけたり、迷惑をかけたりする悪いおこないをしたのではないかと思い、周りの人に懺悔をして「あなたはそんな人ではないよ」と言ってもらって安心感を得ます。
被害恐怖
自分で自分に何か危害を加えてしまうことを恐れます。
刃物を持ったときに自分を刺してしまうのではないかと思い、刃物を持つことができなくなったりします。
強迫性緩慢
日常生活のあらゆる行動が完璧にできていないのではないかと考え、振り返って行動の確認をしたり、シミュレーションをしてみたりを繰り返して動けなくなります。
強迫性障害の克服に有効なこと
本当はどうしたいかに目を向ける
強迫性障害になると強迫観念を打ち消すことが自分のやりたいことのように思えてきます。
しかし、実際にやりたいことは強迫観念を打ち消すことではありません。
強迫観念に駆られて強迫行為を繰り返す膨大な時間は別のことに費やしていたはずなのです。
自分は本来何について考え、どうしたいと思っているのかを考えてみてください。
強迫性障害を発症してから時間が経過している人ほど出てこないと思いますので、カウンセリングでは自分の思いや考えを取り戻すサポートをしております。
過剰な思考優位を改善する
強迫観念に駆られているとき、思考とそれに伴うイメージが過剰に働いています。
思考によって突き動かされて強迫行為をおこなうから実感がなく、結果として大丈夫と思えない状態になっているのです。
鍵を閉めたかどうか気になったとして、大丈夫と思えるのは鍵を閉めた写真を確認するからではありません。
何となく閉めたような気がする、たぶん大丈夫だろうと思う感覚なのです。
カウンセリングでは、感覚、感情への働きかけをおこない、思考優位の状態を改善していきます。
強迫行為を減らす
気になる度合いが小さいことから段階的に強迫行為を減らしていくことは強迫性障害の克服に有効です。
例えば、不潔恐怖で汚れが気になる場合、以下のように抵抗を感じることをリストアップして度合いを書いていきます。
- 排水溝のゴミを取ること(80)
- 床に落ちた物を拾うこと(30)
- トイレのドアノブを触ること(60)
その中で度合いが低いことから少しずつ取り組んでいく形です。
ただ、度合いが低いとはいえ強い抵抗を感じることであるため、カウンセリングでは抵抗を弱めやすいような工夫を一緒に考えていきます。
不快な感覚を受け入れる
ばい菌も縁起が悪いことも人に迷惑を掛けてしまうことも完全になくすことはできません。
誰しも何かしら不快に感じることや納得いかないことがありながら生活しているのです。
自分にとって不快なことをすべてなくすのではなく、受け入れて共存するのが強迫性障害を克服できた状態だと言えます。
メモを取ることがやめられない強迫性障害を克服された俳優の佐藤二朗さんが言われている通りです。
僕自身は子どものころと根っこの部分は変わりません。今だって根拠のない自信を持つ自分もいれば、弱気な自分もいます。こだわりだって強いから、メモ癖も残ってはいます。でも今は共存して闘っていこうと思うし、それが自分の持ち味だとも思っています。
カウンセリングでは、不快なこと、納得がいかないことに向き合い、自分の中で上手く折り合いをつけていく感覚を養っていきます。