隣近所、マンションの上下階に住んでいる人の生活音が気になって仕方がないというお悩みでご相談いただくことがあります。
些細な生活音まで気になってしまうのはものすごくつらいですよね。
常に隣人が出す音に反応してはイライラする。やり返してはやり返されて、嫌がらせをし合う感覚に陥りやすい。
音が気になりすぎて引越しを繰り返す、工事で壁を防音にするといったケースも珍しくありません。
他人の出す些細な雑音が気になって仕方がないのは、神経症の一種である雑音恐怖症に該当すると言われます。
隣人の生活音が気になって仕方なくなるのはなぜ?
隣人の音に焦点が当たりすぎている
最初は誰もが気にするような音がきっかけとなるケースが多いです。
友達同士で集まっての騒ぎ声、子供が走り回る音、ドアを勢いよく開け閉めする音…
まず何かしらの音を不快に思って意識し始めます。そして、音を出す隣人の無神経さに腹が立ち、隣人を責める気持ちが出てきます。
自分はこんなに苦しんでいるのに相手はのうのうと暮らしている。苦情を言っても変わらない。隣人のことを考えれば考えるほど怒りが募り、隣人が出す音への執着が強まっていく。
常に隣人の音に意識が向くことで些細な音まで拾ってしまい、気になって仕方がない状態になるのです。
人目を気にする度合いが強い
「他人にどう思われるか」を気にする人ほど隣人の音を気にしやすいところがあります。
普段から他人を意識する度合いが高いことで隣人にも意識が向いてしまうわけです。
親の顔色をうかがって生きてきた人は他人の反応に敏感です。隣人だけでなく他の人の態度や言動にも敏感ではありませんか?
人目を気にするから他人に迷惑を掛けないようにする意識が強く、迷惑を掛ける人が理解できない、許せない気持ちになりやすい。
音を過剰に気にする自分はおかしいのではないかと不安になり、余計に音が気になってしまうところもあります。人目を気にしているから自分が普通でないことが気になるのです。
不安が強くなりすぎて隣人に監視されているかのように感じ出すケースも少なくありません。
人の目を気にしすぎてしまう他者視線恐怖症の改善方法をお伝えしています。
ストレスによる聴覚過敏
ストレスの影響で音に敏感な状態になっている可能性があります。
掃除機の音や雑踏の中など、周りの人が気にしないような生活の音が頭に響いて辛い。こうした症状は「聴覚過敏」と呼ばれる。近年は発達障害の特性である感覚過敏のひとつとして知られるようになったが、実は障害の有無にかかわらず、病気やストレスなどによって後天的に誰にでも起こりうるものだ。
特に人とのかかわりでストレスを抱え込んでいる人が多いです。
ストレスで聴覚過敏になっているから音が気になる。音が気になることでストレスを抱えてさらに聴覚過敏が悪化するという悪循環に入っていきます。
気が狂いそうになる感覚は莫大なストレスを抱えている証拠です。
音が気になりやすい潜在的な原因
繰り返してきた我慢の蓄積
過去の経験や普段の生活での我慢が多い人ほど、隣人の生活音に過敏になりやすい傾向が見られます。
我慢を繰り返してきた状態はパンパンに膨らんだ風船をイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。些細な刺激に反応しやすく、場合によっては破裂してしまいますよね。
自分が我慢ばかりしていると他人にも我慢を強いる感覚が出てくる。「こうあるべき」を振りかざして蓄積された不満を隣人に向けています。
「音を出さないように気を遣って生活すべきなのになぜやらないんだ!許せない!」と相手を責める気持ちの裏には、「自分はこんなに我慢しているのに」という気持ちがあるのです。
自分の中にある怒りが隣人に映し出されることによって、隣人が意図的に音を出して嫌がらせをしてきているように感じるところもあります。
相手が怒っている、自分を嫌っていると思い込んで苦しむ心理についてお伝えしています。
生まれ持った音に敏感な性質
発達障害やHSP(人一倍敏感な人)はどうしても音が気になってしまいます。
発達障害のある人の中には、聴覚に過敏性のある人がいます。特定の音に過剰反応したり、多くの人にとって気にならないような音が、耐えられないほど大きく感じられたり…その結果、イライラしてしまうことや、ぐったりと疲れて寝込んでしまうこともあります。
発達障害の場合はフィルターがなくダイレクトに音が流れ込んでくる状態、HSPの場合はセンサーが過敏で感じ取りやすい状態のため、どちらも些細な音を拾ってしまうのです。
食事中のそしゃく音やタイピング音等、特定の音に強い嫌悪感を抱く「ミソフォニア」が影響している可能性も考えられます。
似通った特徴を持つHSPと発達障害。代表的な6つの特徴から違いを説明しています。
他人をコントロールできる感覚
他人が音を出すか出さないか、小さい子連れの家族が隣近所に引っ越してくるかどうか等、他人がどうするかは他人次第。
自分が他人をコントロールできるはずはないのですが、「自分は自分、他人は他人」という線引きができていないとコントロールできる感覚になってしまう。
だから、相手が音を出し続けることが納得いかず、仕方ないと割り切ることができないのです。
自他の線引きができていないということは、自我(アイデンティティ)が曖昧になっている可能性が高く、物事に対して自分の中で上手く折り合いがつけられない問題を抱えています。
他人をコントロールして折り合いをつけようとしているから他人の音が気になってしまうわけです。
何でも自分の思い通りになるという幻想を抱く幼児的万能感。その問題と克服のポイントをお伝えしています。
隣人の生活音が気になる度合いは悪化していく
音が鳴ることに対する予期不安
最初は音がしたときだけ気にしていたはずが、音がしていない時間も気になってくる。
眠りにつくとき、好きなことをするとき、仕事をするとき等、人によってどのタイミングが気になるかは違いますが、音によって妨害されることを不安に思うのは共通しています。
「また音が鳴るのではないか」「音がしたらどうしよう」と考えれば考えるほど、隣人の生活音が気になってしまうのです。
そして、聞きたくないはずなのに音がしていないか耳をすませるような状態になっていく。
気になりすぎて壁に耳を当てて隣人の音を聞いたり、カーテン越しに様子をうかがったりする人もいました。
自分に対して厳しく、相手に迷惑をかけてはいけない意識が強い人ほど、悪循環にはまりやすい傾向が見られます。
先のことばかり考えて目の前のことが手につかない…どうすれば予期不安から解放され今に集中できるようになるかをお伝えしています。
自分の発する音まで気になってしまう
隣人の発する生活音を気にしていると、だんだん自分の発する生活音が迷惑ではないかと考えるようになります。
自分が迷惑だと感じているから相手も迷惑だと感じるに違いないと思ってしまうんですよね。
そして、隣人の発する音と自分が発する音の両方に意識が向くようになると、自分の発した音で相手が反応しているように思えてきてどんどん音を出せなくなっていく。
友達と電話で話すときに小声で話したり、足音を立てないようにしたり、パソコンのキーボードを音が出ないように叩いたり…
相手がバルコニーに出なくなったり、洗濯物を干さなくなったりすると自分のせいだとまた音を気にしだす。
気にする音が増えれば増えるほど制限がかかるので、莫大なストレスを抱えて眠れなくなったりすることも多いです。
隣人の生活音が気になりすぎてトラブルに発展するケースも
人が住んでいる以上生活音が消えないのは当たり前ですが、気になっている人にとっては耐え難いもの。
我慢できなくなって壁を叩いたり、天井を突いたり、怒鳴ってしまったりすることで相手が怒鳴り込んできてトラブルになったというケースも聞きます。
また、気になるからと隣人の様子をうかがう、不自然に音を立てないようにする等によって不審がられてしまうこともありました。
ずっと音を気にして生活し続けているとイライラしやすくなるのは当然だと思いますが、隣人とのトラブルだけは起こさないようにしたいものです。
隣人の生活音を気にしない状態になるために
音以外のことに焦点を当てる
音のことが気になっていると他のことに焦点が当たらなくなります。
日々の生活で何があって、どういう気持ちになったかを聞かれても出てこない。
「いつ音が鳴るのか」「どうすれば音を気にせずいられるか」ばかり考える状態になってしまうからです。
音のこと以外で何があったのか、そのときどういう気持ちになったのかを一日の終わりに振り返ってみましょう。
とくに感情の動きに焦点を当てて書き出すと効果が出やすいです。
本来日常で意識が向くはずのことに分散されていく中で音への意識は緩和していきます。
ワーキングメモリを鍛える
ワーキングメモリは特定の目的や作業のために記憶を出し入れする同時処理能力のことを指します。
隣人の生活音が気になりすぎる状態の人は、このワーキングメモリの容量がいっぱいになっているから、音が気になりだすと他のことに集中できない問題が起こるのです。
不安は抱えながら行動することで解消されていくのですが、ワーキングメモリに空きがないと不安を感じるだけで終わって行動ができない。行動できないから不安が解消されず、常に不安なことばかり考えて過ごしてしまうことになっています。
ワーキングメモリを鍛えたいのであれば以下のことが効果的です。
- Nバック課題
- 百マス計算
- スロージョギング
- カウンセリング
ワーキングメモリを鍛えることで不安をコントロールしやすくなり、不安を感じながらでも行動できるようになるから緩和されるんですよね。
音に対する捉え方を変える
隣人が同じマンションの住人に全く気を遣わず音を出している。
注意をされたことを鬱陶しく思ってわざと音を出している。
こういった捉え方をしていると許せない気持ちにしかなりません。
逆に、以下のような捉え方ができれば受け入れやすくなります。
家事や子育てに追われて周りのことが考えられない状態になっている。
人ではなく動物が住んでいるから音が鳴っている。
隣人が音を出す理由について自分が納得しやすい捉え方を自由に考えてみてください。
隣人の出す音が全体の一部でしかないという捉え方をしてみるのも有効です。
救急車やパトカーのサイレン、選挙カーの演説、バイクのマフラー音、犬の鳴き声、子供の騒ぎ声など、世の中にはうるさく感じる音がいっぱいありますからね。
排除しようとせず受け入れていく
現在までカウンセリングを重ねてきた中で、神経質で音が気になりすぎる人にとって「排除」というのはキーワードだと思っています。
隣人が出す音を排除しようとすることで執着が強まり、余計に音が気になっているからです。
排除の反対は「受容」。
排除しようとせず受け入れることが改善へのカギとなります。
ただ、隣人を理解して受け入れようとするのは抵抗が強いと思いますので、まずは自分を受け入れるために書き出すことから始めてみてください。
音が気になってイライラする気持ち、音を気にしてばかりで何もできていない自分、過去の消化できていない気持ち等。
受け入れることができればできるほど音に対する執着は弱まっていきます。
どれだけ書いても楽にならない場合は、誰かに受け入れてもらう必要がありますのでカウンセリングを活用していただければと思います。
カウンセリングで音へのとらわれを解消する
今の状態で音が気になってしまうのはどうしようもありません。
だからといって、隣人に働きかけて音をなくそうとしたり、ヘッドホンで音を遮断していたりでは、音にとらわれた状態のままになってしまいます。
音が気になりながらでもどれだけ自分のやりたいこと、やるべきことをやっていけるかどうか。
自分がやりたいこと、やるべきことができればできるほど、隣人の生活音はどうもでいいことになっていきます。
ただ、音が気になる度合いが強い人ほど音のことばかり考えて生活しているので簡単ではありません。
カウンセリングを受けることで音が気になってしまう原因に気付き、感情をコントロールする感覚を養うことができるため、音以外のことに意識が向きやすい状態になっていきます。
そして、自分にとって大切なことを優先できるようになれば心が満たされて穏やかな気持ちになる。音のことを考える時間がどんどん減って改善へと向かうのです。
音が気になる度合いや状態、もともとの性質の影響などによって何をすればいいかは異なりますので、詳しくお話をお聴きした上でアドバイスしております。
隣人の生活音が気になって仕方がない、しんどい生活を耐え忍んでおられるようでしたらご相談ください。