
口の中に唾が出てきて飲み込むこと、それに伴って音が鳴ることは何ら特別なことではありません。
しかし、唾を飲み込む音が周りに聞こえて迷惑をかけてしまう感覚になると、自然に唾を飲み込むことが難しくなっていきます。
唾を飲む音を出してはいけないと思えば思うほど唾が出てきて余計に音が鳴ってしまう。音を出さないように意識しすぎると唾が飲み込めなくなる。どうすれば音を出さないようにできるかと考えてどんどん悪化していく。
唾を飲み込む音が気になって仕方がない症状は「唾液恐怖症」と呼ばれ、誰にも言えず苦しんでいる人は少なくありません。
不登校になって学校に行けない、仕事ができないと困り果ててご相談いただくケースがほとんどですが、カウンセリングを受けることによって改善していくことができます。
唾液恐怖症の症状
唾液恐怖症とは?
唾液恐怖症は自分の唾を飲み込む音で他人を不快にさせてしまうことを恐れる症状です。唾恐怖症、唾液嚥下恐怖症とも呼ばれます。
自分の出す音で周りが反応すると確信しているところから確信型の対人恐怖症に該当しますが、ご相談を受けてきた実態からすると強迫性障害に近い印象です。妄想が膨らんで統合失調症のようになっている方もおられます。
静かな場所で人と話すとき、話を聞いているときに、唾を飲み込んだ音が周りに聞こえないかが不安で緊張してくる。誰かが咳払いをしたり、鼻をすすったり、話し声が聞こえたりすると「自分が唾を飲み込んだからだ」と思い込む。
たいてい他人に迷惑をかけてしまう自分を責めて落ち込むのですが、反応されることにイライラしてくる人もいます。
人口密度が高く静かになりやすい空間がつらいので、学校の授業中やテストの時間で苦しむ人が多いですね。
音を出さないようにしようと意識するがためどんどん音に過敏になって、ジュースを飲む音、本のページをめくる音、パソコンのタイピング音、ビニール袋を触る音など、他の音まで気にしだすケースもありました。
唾を飲む音が鳴りやすいのは極度の緊張状態によるもの
唾液恐怖症の症状は過度の緊張によって生み出されています。
人は緊張すると自律神経が交感神経優位の戦闘モードになるため、即座に闘うか逃げるかを判断できるよう感覚が研ぎ澄まされる。
些細な音も拾って外敵から必死に自分の命を守ろうとする状態になっているわけです。
さらに唾液の分泌が促されて質が変わることも影響しています。リラックスしているときも唾液は分泌されやすいのですがサラサラの唾液。対して、緊張状態ではネバネバの唾液になってしまう。
唾液の塊を飲み込むような感じになるから少量でも音が鳴りやすいんですよね。
飲み込むタイミングを計ることによって唾液が溜まり、飲み込むとき余計に音が鳴ってさらに緊張するという悪循環もよくあります。
常に唾を飲むことに神経を遣っているから疲労やストレスが莫大。常に緊張が解けずリラックスする感覚がわからなくなっていくのです。
唾を飲み込む音は周りに聞こえている?
唾液恐怖症になると唾を飲み込む音が離れた場所にいる人にも聞こえているような感覚になります。
教室や塾、病院など自分がいる空間だけでなく、隣の教室や近所の家にまで聞こえていると思う人もいるくらいです。
症状がない人に比べて唾を飲み込むときの音が大きくなりやすい傾向はありますが、一定の広さの空間全体に聞こえるほど大きな音が鳴るというのは現実的ではありません。
唾を飲み込む音は自分の耳では大きく聞こえ、さらに自分が気にしていることで拾いやすくなっている。
しかし、実際の音は自分の外側にいる人が聞くので小さくなり、唾を飲み込む音に注意が向いていないから聞こえることはほとんどないのです。
どうしても気になるようでしたら一度スマートフォン等で録音して聞いてみるのもいいと思います。
唾液恐怖症の原因
生まれ持った性質と環境の掛け合わせ
感情的になりやすい親の顔色をうかがって育ち、学校でも他人に合わせて迷惑をかけないようにしてきた。
でも、なぜか他人に拒絶される出来事が起こり、思い当たることがないから自分の出す音で迷惑をかけてしまったのが原因だと紐づける。
親子関係の問題を抱えながら生活してきた中で、誰かに拒絶された(と思った)経験をキッカケに唾液恐怖症を発症するケースが多いです。
人と接するときに過度の気遣いをしているので疲れやすく余裕がない。余裕がないから緊張しやすく些細なことが気になりやすい。
自分が嫌われること、傷付くことが怖いから他人に迷惑を掛けることを過度に恐れるのです。
また、唾を飲む音を聞かれるのが恥ずかしいという感覚もあります。授業中にお腹がグーとなって恥ずかしい思いをするのが近い感覚かもしれません。
同じ家庭環境で育った兄弟姉妹が全員発症するわけではないことから、神経質さ、恥ずかしがりで目立ちたくない性格、感情的で執着しやすい傾向、音に敏感なHSPや発達障害等、生まれ持った性質の影響はあると考えられます。
似通った特徴を持つHSPと発達障害。代表的な6つの特徴から違いを説明しています。
唾液恐怖症の症状を生み出す心理
親や他人、世間一般を基準に生きてきた人ほど無価値感を抱えているケースが多いです。
人より勉強ができたり、仕事ができたり、一定の収入を得られていたり、家庭を築けていたり、何かしらの条件を満たさないと自分に価値があると思えない。
幼少期の親子関係やアイデンティティを形成する上で重要な思春期に躓いたりすると、「自分とは」の答えが出ないまま自分の存在に価値を見出せない状態になる。
唾を飲み込む音によって他人に迷惑を掛けることは自分自身が存在している証でもあります。存在していなければ他人に影響を与えることはできませんからね。
自分が存在しているからこそ、良い面でも悪い面でも他人に影響を与えることができるわけです。
本来なら良い影響を与えたいけど与えることができない。影響を与えられないということは存在しないことになるから耐えられない。何かしらの影響を与えて存在を証明しないといけない。そこで唾液恐怖症の症状が生み出されるわけです。
河合(1995)は,症状を解消することにも,解消せずにいることにも意味がある..としており,実際,ひたすら他者に融和的な彼女たちにとって症状は唯一の「自分らしさ」-「我」であるとも言える。
症状は悪い影響を与えてでも自分自身の存在価値を見出してくれているもの。「目立ちたい、他人に勝ちたい、特別扱いをされたい」といった思いが強くなるのも、価値を見出そうとする気持ちの表れと言えます。
唾液恐怖症の人に見られる傾向
他人に拒絶される不安が強い
唾液恐怖症の人は唾を飲む音より大きいはずの鼻すすりや咳は気になりません。風邪だったり花粉症だったり、自分も含めてみんなが特別視しないからです。
でも、唾を飲み込む音は違う。誰も音がしないはずなのに自分だけ音がする。
唾を飲み込む音が出てしまう自分がおかしいと思うから気になってしまうんですよね。
周りと比べておかしくないかどうか、普段から他人の目に対する意識が強い。みんなと違うところがあると受け入れてもらえないかもと不安を抱えています。
だから、実際には拒絶されていないのに拒絶されたと思いやすく、被害妄想で人間関係をこじらせてしまったり、過剰な防衛で人とのかかわりを遮断したりするのです。
なぜ人の目が気になってしまうのか?原因と引き起こされる問題、克服方法をお伝えしています。
他人を優先する意識が強すぎる
唾液恐怖症の人は他人に迷惑をかけないことを常に優先しています。
相手が聞かれたくないかもと思って聞きたいことを聞かない。相手が興味ないだろうと思って話さない。自分のことを話さないから相手に「何を考えているかわからない」と思われやすく、勘違いされてしまうことがある。
発症のキッカケになる人間関係のトラブルはここからきているのではないかと思っています。
受身で自分から話しかけることが極端に少ないため、人と仲良くなれないことに悩む。他人との距離が縮まらないから警戒心が解けず緊張したままになっているのです。
他人優先で生きてきたことで自分の気持ちが置き去り、自分が空洞化していてよくわからないことで相手に合わせざるを得ない状態になっているのもあります。
まるで人に迷惑をかけないことが生きる目的のようになっている確信型対人恐怖症の人にお伝えしたい内容です。
唾液恐怖症を克服するカウンセリング
唾液恐怖症の克服には自分を取り戻すことが必要
自分が唾を飲み込む音への意識が強すぎることが問題なのですが、意識しないようにすることはできません。
他人に迷惑をかけてしまうこと、結果として自分が嫌われてしまうことへの恐れが強くありますからね。
音を気にしないように努力するのではなく、他人が自分をどう評価しようと「自分には価値がある」と思える感覚を養うこと。そのために、本当の自分を取り戻すことが必要なのです。
カウンセリングで自分のことを話し、過去の親子関係、学校や職場の人間関係等で抑圧してきた本音に気付くと本当の自分が見えてきます。
無意識に目を背けてきたところがあるため、本当の自分を知ることに痛みが伴う面もありますが、バランスを取りながら向き合い続けられるようにサポートいたします。
「他人に迷惑をかけてしまうならやめよう」「相手が求めているならやろう」ではなく、「自分がやりたいからやる」に少しずつシフトしていく。
自分を優先できる比率が高まるにつれ、他人に迷惑をかけること、自分が嫌われることへの恐れが緩和。人に気を遣いすぎることがなくなれば、緊張が解けて唾液恐怖症は克服に向かうのです。
総合的なアプローチで唾液恐怖症を克服していきます
唾液恐怖症は対人恐怖症の中でも克服が難しく、傾聴で気持ちを受け止めることや認知の修正で考え方を変えることだけではなかなか効果を出すことができません。
総合的な働きかけが必要となるため、カウンセリングでは視点の切り替えや視野を広げることにつながる思考へのアプローチ、自分の気持ちに目を向けて感じやすくする感情へのアプローチ、不安や恐怖が染みついた身体感覚、条件反射レベルの反応を変えるアプローチを並行しておこなっていきます。
緊張を生み出している不安や恐怖の対になる安心感をどれだけ培っていけるかが改善のポイントです。
「唾を飲み込む音が気になるからできない」から「どうすれば音が気になりながらでもできるか」へ。
最初はなかなか上手くいかないところは多いですが、カウンセラーと試行錯誤しながら取り組みを続けていけば変化が出てきます。今まで改善した方々も同じような過程をたどっておられました。
唾液恐怖症は緊張度が非常に高い症状であるため、リラックスして少しでも症状を和らげるアドバイスもおこなっております。
唾を飲み込む音ばかり気にしてつらい日々を耐え忍んでおられるのであればご相談ください。