人と話すのを怖がっている女性

対人恐怖症は、対人場面で強い不安や緊張を抱くため、人とのかかわりを恐れて避けようとする神経症です。

対人不安、対人緊張、社会不安、人間恐怖と呼ばれることもあり、対人恐怖症の傾向があることは「対人恐怖心性」と表現されます。

人とかかわりたい気持ちを強く持っているからこそ、人に嫌われること、拒絶されることが怖くて仕方ない。

嫌われないようにと相手にあわせて自分を作っているから、本当の自分が受け入れてもらえると思えずバレたらどうしようという不安に苛まれるのです。

対人恐怖症は見失った自分を取り戻し、人とのかかわりで安心感を積み重ねていくことで改善に向かいます。

対人恐怖症の診断と分類

引用元:社交不安障害の診断と治療、精神神経学雑誌 117(6), 413-430, 2015、日本精神神経学会

対人恐怖軽症例と対人恐怖定型例に二分されたものが、1997年に緊張型対人恐怖と確信型対人恐怖へと変わりました。

さらに4群に分ける概念も生まれ、妄想的確信を持っている患者に対しては思春期妄想症という名称がつけられています。

診断基準である米国精神医学会の「DSM-5」と対応させると、緊張型対人恐怖、第1群および第2群が社交不安障害とほぼ同じ。

確信型対人恐怖、第3群、思春期妄想症は醜形恐怖症/身体醜形障害、妄想性障害身体型に分類されると考えられています。

DSM-5でやや混乱をきたしやすい点は,BDDが身体表現性障害から強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群に移り,醜貌恐怖(shubo-kyofu),自己臭恐怖(jikoshu-kyofu)が日本語名のまま他の特定される強迫症および関連症/他の特定される強迫性障害および関連障害として記載されたことである.BDDを強迫関連症として検討していくのがよいか,あるいはSADに関連したものとして検討していくのがよいか診断学的にも議論がなされているが,わが国では対人恐怖全体を一臨床疾患ととらえた上で亜型に分類するのが合理的であるとの考えが提案されている.

引用元:社交不安障害の診断と治療、精神神経学雑誌 117(6), 413-430, 2015、日本精神神経学会

醜形恐怖や自己臭恐怖といった特殊なものも対人恐怖症のサブタイプとして扱う方向になっています。

DSM-5が導入された現在、対人恐怖症は社交不安障害(社交不安症)と診断されるケースがほとんど。

3~13%の高い生涯有病率で、うつ病やアルコール依存症、統合失調症との併存が多いことも示されました。

⇒対人恐怖症の度合いをチェック

人が怖い…対人恐怖症の実態

人が怖いと言っても、家族にまで怖さを感じる人は少ないです。

何をしても受け入れてもらえるという安心感がある関係の人(家族や親友等)は怖くない、症状が出ても軽度となる場合が多い。

逆に、職場など中途半端に継続する関係や飲み会など複数人の集まりを恐れる。初対面よりも2、3回接点がある中途半端な関係の人が苦手といった特徴があります。

「対人恐怖症の人=人とまったく話せない人」というイメージを持たれがちですが、ほとんどの人が人と話すことはできる状態です。表面的にはうまく会話できる人もいますからね。

ただ、緊張せず人と自然に話したり、本当の自分を見せたりすることができず、人間関係をうまく構築できない状態なのです。

いずれ治るだろうと症状のつらさを我慢したり、ごまかして過ごす人もいますが、人とのかかわりを回避してしまうから治りません。

人付き合いを避けることばかり考えて視野が狭くなっているため、本やインターネットで調べても解決できないまま一人で悩み続けてしまう傾向が見られます。

人が怖いことで引き起こされる症状

不安や恐怖に飲まれてしまうことによる過度の緊張が症状を生み出します。

さらに、症状が出ているのを知られることに恐怖を感じるため、隠そうとしてより緊張を増していく悪循環に陥るのです。

具体的には以下のような症状があります。

対面で人と話すとき、人前で話すとき等の直接人と接する場面だけでなく、道路、電車の中、人ごみ等、人がいるだけのところでも症状は出ます。

自分のことにばかり意識が向いて(自意識過剰)他人のことが考えられない、相手に迷惑を掛けてはいけないのに掛けてしまう罪悪感等によって自分を責める、否定する。

他人に迷惑をかけることを恐れる加害性は日本の文化圏特有と考えられてきましたが、実態を調査した結果アメリカでも一定数認められています。

「この症状さえなければ」と思って症状をなくそうする人は多いですが、頑張れば頑張るほど症状への意識を強めてしまうのでやめましょう。

症状はあくまでも表面化しているものでしかないため、症状を生み出す原因を知ることが大切です。

なぜ人が怖くなってしまうのか?

対人恐怖症の原因には「先天的要素」と「環境要因」があります。

先天的要素

不安を感じやすい、怖がり、恥ずかしがり、感受性が高い、影響を受けやすい、真に受けやすい、思い込みやすい、他人に興味が持てず一人遊びが好き等といった生まれつきの性質。

個人の特性を9つに分類するエニアグラムでタイプ4に当てはまる人は、感情に左右されやすくネガティブ思考であるため対人恐怖症になりやすい。(私もタイプ4です)

⇒エニアグラムのタイプが気になる方はこちらのサイトで診断できます

そもそも日本人の大半は「心を落ち着かせる働きをするセロトニン」を取り込むセロトニントランスポーターの数が少ないことから、脳の構造上どうしても不安を感じやすい傾向はあります。

HSP(ひといちばい敏感な人)や発達障害に該当するケースもあり、発達障害の二次障害として対人恐怖症を発症することも。

慎重で警戒心が強いことから「石橋を叩いても渡らないタイプ」と言われる人も結構います。

みんなが面白いと思うものを面白いと思えなかったり、興味関心の対象がマニアックだったり、周りと感性が大きく違っていることも影響しやすいですね。

その他、アトピー性皮膚炎、わきが、吃音、漏斗胸といった身体的特徴。

周りと異なる面が多ければ多いほどいじめやからかいの対象となりやすく「自分は変なんだ、おかしいんだ」と思うことで始まる自己否定が対人恐怖症につながっていきます。

環境要因

日本の文化

田舎の風景

まずは日本人が根底に抱えている人が怖いという感覚から。

「人が怖い」というのは特殊な、おかしい感覚と思われがちですが、実は日本人が誰しも抱えているものだと知っていただきたい。

私たち日本人は「社会からの孤立=死」という感覚を持って生きています。

  • 和を以って貴しと為す
  • 自己主張より他者配慮
  • 個人主義より集団主義

以上のような言葉で表されるように、みんなのために生きる、自分を犠牲にしてでも人の為に、という考え方が根付いているわけです。

大規模災害で被災地以外の人が自粛したり、募金やボランティアを必死になってやるのも、日本が諸外国に比べて殺人より自殺する人の比率が高いのも、日本人特有の考え方が影響していると言われています。

集団の中の自己主張が毛嫌いされ浮いてしまうことを恐れるため、みんな同じ、世間体、平均、普通といった概念に縛られて個性を押し殺している。

このような社会で生きていく限り誰もが多かれ少なかれ他人の目を気にせざるをえないので、日本人は全員対人恐怖症だと言えるかもしれません。

親子関係

お絵描きをしながら話す娘と母

自分の性質や特徴、感性を親に否定されてきた。

兄弟姉妹、他人と比較してダメ出し。自分と他の兄弟姉妹に対する親の態度が違う。

親の考えを一方的に押し付けられることの繰り返しで「言っても聞いてもらえない」「言ってもムダだ」という諦めが生まれる。

暴力を振るう親、ヒステリックな親の顔色をうかがってビクビクしていた人もいます。

世間を基準にした正しいか間違っているかの規範意識、結果がすべてという考えによって本当の自分をさらけ出せない。

ある条件を満たしたときだけ親に認めてもらえる条件付の愛情により「いい子」を演じてきた人は多いです。

過干渉、過保護で自我(アイデンティティ)が確立されないから反抗期もなく従順。

「嫌でも親に従わざるを得ない、いい子でないと見捨てられるかもしれない」といった親子関係での恐怖心が人に対する怖さを生み出しているのです。

学校

帰宅する女子中学生数人の後ろ姿

集団生活により協調性が身につく反面、他人との違いを意識するようになる。

勉強ができるかどうか、運動ができるかどうか、容姿がいいかどうか、面白いかどうか、友達が多いかどうか等、表面的な要素で優劣を判断。

見た目や生まれ持った性質(HSP、発達障害など)が周りと違うといじめやからかいの対象になりやすい傾向があります。

スクールカースト、女子の場合はグループも意識することになり、孤立しないために集団の中で自分の居場所を確保しようと必死になる。

中学で知らない子ばかりのクラスになったり、転校したときに上手く馴染めなかった場合、周りに合わせる自分を演じて本当の自分を抑え込んでしまう。

先生からありのままの自分を否定された経験。

デリカシーのない友達からの指摘や悪意のある言いがかりによって、本当はおかしくないのにおかしいと思い込んでしまうことも。

いじめはもちろん、仲良くしていた友達が急に無視してきたり、仲間外れにされたりすることで、人を信じられなくなることもあります。

社会の変化

昔の日本社会では、家族や親族同士で同じ地域に集まって住み、その中で祖父母、叔父、叔母、甥、姪、従兄弟、従姉妹といった親族とかかわりながら暮らしていました。

行事ごとがあれば都度集まってかかわらざるをえない環境で、年上、年下と付き合いながら人との付き合い方を自然に学ぶことができたのです。

イメージでいうとサザエさんの時代ですね。

男尊女卑の考えからひきこもりが許されない男性は無理矢理でも社会に出さされ、逆にひきこもりの女性は重宝されたという話もあります。

今の日本社会は核家族化が進み、親族が同じ地域に集まって暮らすことがなくなりました。

当然、親族同士での交流も希薄になり、年上、年下との付き合いもほとんどありません。

インターネットの普及により、経験の機会が減少したことも失敗や恥への恐れにつながっているでしょう。

さらにSNSの登場でコミュニケーションの取り方が複雑化。

いつでも連絡を取れる、つながれる、お互いの状況を知れるという便利さは息苦しさにもなります。

どんどん便利になっていく社会で物やサービスばかりが進化して人が成長できない。いまや退職の申し出すら業者にやってもらうような時代になっているのです。

昔の日本社会が良かったとは言えませんが、時代の変化とともに対人恐怖症が生まれやすい社会になっているのは間違いありません。

対人恐怖心性の特徴である「集団に溶け込めない悩み」、「目が気になる悩み」、「生きていることに疲れている悩み」に関する平均値については、1993年の調査時よりも2008年の調査時のほうがそれぞれ男女共に有意に高くなった。この結果から、大学生の対人恐怖心性は時代的推移と共に高まっている可能性が考えられる。

引用元:青年期における対人恐怖心性の特徴とその関連要因についての省察、2013、愛知大学教職課程研究年報

対人恐怖症を発症するメカニズム

自己否定の習慣により自己肯定感がどんどん失われていく。

自分の基準で生きれなくなり、他人や世間一般の基準にすがるようになる。

相手が悪くても責められず自分を責めてばかり。

自分を守ろうとする心理が働き、プライドが高くなり頑固になるから素直に人の話が聞けなくなる。

相手を責められないから怒りが湧かず、嫌だという感覚も麻痺。

存在意義を見失って「自分がいない方が上手くいく、自分じゃない人と話す方が相手のためになる」等と考え出す。

誰でも嫌がるようなこと、怒るようなことにも反応しなくなることで優しい人に見られる。

周りのイメージによってより自分のネガティブな側面が抑圧されて苦しくなっていく。

自分から壁を作って接しづらくしておきながら、相手が自分を嫌っていると被害妄想。人間不信を募らせる。

そして、限界を超えたときに対人恐怖症を発症するのです。

先天的要素と環境要因を抱えていても、限界を超えない限り発症には至りません。

発症の時期が中学という人もいれば、社会人になってからという人もいますし、事例からも限界を超えたときに発症していることがわかります。

対人恐怖症で悩む人の特徴

自己評価が低い

青年期における自己評価や自尊感情の低さや公的自己意識の高さは、対人恐怖心性の高さと有意に関連していることが明らかにされている。

引用元:青年期における対人恐怖心性の特徴とその関連要因についての省察、2013、愛知大学教職課程研究年報

自分は周りより劣っていると思うから無理をして周りに合わせようとする。頭が真っ白になる、顔のこわばり、赤面や震え、発汗は無理をし過ぎたオーバーヒートによるもの。

余裕がないから相手のことを考えられず、自分のことしか考えられない自分を責める。

自分が自分を否定しているから、他人も自分を否定するとしか思えない。自分を出せないから人との関係が築けないまま、表面的な付き合いで相手に合わせるだけ。

相手に負担をかけたり変に思われて「嫌われるんじゃないか」という恐怖心から悩みを打ち明けること、相談ができない。一人で解決しようと抱え込む。

自分の基準で自分を評価できないから、いくら頑張っても自信が持てない。だから、他人からの評価で埋めるしかなくなり、他人の目がどうしても気になってしまう。

相手に合わせてばかりで自分を見失うから意見が持てず「どっちでもいい」ばかりになる。

自己否定により自己肯定感が失われ、自我が確立されていないから自分に価値を感じられない。価値を見出すために大変な仕事を押し付けられても頑張ってこなそうとする傾向もあります。

認知の歪み

対人恐怖症の人は以下に挙げるような歪んだ考え方を持っています。

0か100か思考(白か黒か思考)

1~99が無く、少しでも欠けてしまうと0、できたとしても100でなければ0と同じと思う極端な考え方です。

過剰な一般化

過去に1、2回あったマイナスの出来事が常にどこででも起こると決め付ける考え方です。

マイナス面捜索思考

出来事に対してとにかくマイナス面を探して、それだけに執着して他の良い部分が見えなくなってしまう考え方です。

プラス面否定思考

客観的に見れば良いことを否定してしまう考え方です。

勝手な読心術

相手の部分的な行動や発言だけで、相手はこう思っているに違いないと決め付けてしまう考え方です。

予言者

「こんなことを言ったら上司に怒られる」「飲み会に行ってもうまく話ができない」「自分を出して人付き合いをすると必ず嫌われる」といった自分に対する無意識の予言。

破滅型思考

些細なことで最悪の事態を想定してしまう考え方です。

感情的な予測

事実ではなく自分の感情をあたかも事実であるかのように捉えて、それを根拠にして物事を判断する考え方です。

すべき思考

「~すべき」「~でなければならない」という考え方です。

自分への責任転嫁

自分と関係ないことまで自分の責任だと決め付けて自分を責める考え方です。

感情の抑圧

感情や欲求を抑圧しているから不安や恐怖に飲まれやすい。

嫌なことも嫌と言えず怒りや不満が蓄積されているから他人に投影されて怖さを感じる。相手が怒っていないのに怒っていると思ってしまう。

怒りが出せないから相手からの攻撃が怖くて仕方なくなる。打たれ弱い。

本当なら耐えきれないほどのしんどさ、つらさがあるはずなのに、自分の気持ちを麻痺させて成り立たせている状態。

嫌でも嫌と言えないから我慢することの積み重ねで心が悲鳴を上げているのが症状として表面化する。

症状を隠していたり安心できる相手には症状が出ないこともあって表面上は悩んでいないように見られやすく、家族や友人に話しても「誰も気にしてないよ」等と自分の苦しさを理解してもらえないことで余計に苦しむ。

認められたい、わかって欲しいが強いから、わかってもらえないことに悲しみ、怒りを感じる。「わかってもらえない=愛されていない」という感覚にもなるから耐えきれない。

自己愛が強い

自己愛と対人恐怖症には密接な関連性が見られます。

対人恐怖が生じる背景として自己愛の強さが挙げられる。他者から自分がどのように見られているのか、といった自分のことに対する意識の高揚が自己愛に関係し、それが対人恐怖に結びつくという見解である。

引用元:青年期における対人恐怖心性の特徴とその関連要因についての省察、2013、愛知大学教職課程研究年報

自己愛と聞くと「自己愛性パーソナリティ障害」をイメージする人もいますがイコールではありません。

自己愛とは自分への興味関心であり、自分を愛する大切な感覚です。

しかし、親に愛されないと肥大化した自己愛に固着、誇大な自己イメージにとらわれてしまう。

過敏型の自己愛が強い、あるいは脆弱な自己愛傾向がみられる青年は他者に承認・賞賛や特別な配慮を求める傾向があり、そして、期待した反応が返ってこないときには心理的に不安定になりやすく、対人恐怖傾向が高くなりやすいと考えられる。

引用元:青年期における対人恐怖心性の特徴とその関連要因についての省察、2013、愛知大学教職課程研究年報

過度な承認や特別扱いを期待して、応えてもらえないことで悲しみや怒り、無価値感を抱え続けるのです。

自分には価値があると思えないのに、価値があるように扱ってもらえないと傷付く。

親に愛されなかったものを他人に求める状態になっています。

対人恐怖症の克服に効果的な心理療法

対人恐怖症を克服するにあたって効果的だと言われている代表的な心理療法として以下の4つが挙げられます。

とくに認知行動療法、森田療法が有名です。

認知行動療法

認知の歪みが原因で精神疾患が起きているという前提で認知の歪みを修正していく療法。

うつ病と対人恐怖などの不安障害に対して確実な効果があることが科学的に証明されており、他の治療技法に比べて短時間で大きな効果があらわれると言われています。

研究グループは今回、抗うつ薬で改善しない社交不安症患者が、認知行動療法を受けることで顕著に症状が改善するだけでなく、その効果が治療終了 1 年後まで維持されることを明らかにしました。なお治療終了 1 年後の時点で、認知行動療法を受けた 21 名の患者のうち 85.7%(18 名)が顕著な改善反応を示し、57.1%(12 名)は社交不安症の診断がつかない程度(健常者と同程度)まで改善しました。

引用元:社交不安に薬の治療が効かないとき、2019、千葉大学

ただし、ある程度改善して自分を客観視できる状態になってからでないと効果が出づらい面はあります。

視線恐怖症で何年も悩んでいる人が認知行動療法を受けたケースで、「見られていない可能性もあるのでは?」という話をされて「いや、絶対に見られています」と答えて何の効果も感じなかったという事例は多いです。

はじめはうつ病に対する治療法として確立され、その後、パニック障害・強迫性障害・対人恐怖などの不安障害や、発達障害、摂食障害、統合失調症の症状(幻覚や妄想)、パーソナリティ障害にも適用されるようになりました。

アメリカの保険会社やイギリス政府は、認知療法の治療効果を正式に認めており、欧米の精神療法のガイドラインには認知行動療法が推奨されていますが、日本ではまだまだ導入が遅れています。(2010年4月からうつ病に対する治療を中心に保険適応化されてきています)

森田療法

人間が本来持っている自然治癒力を活かし、不安をあるがままに受け入れて捉われから脱出する療法。

神経症の治療法であり、対人恐怖症やパニック障害などに有効とされています。

社交不安障害患者たちは、人前で赤面や視線が気になるなどのさまざまな症状が出てしまうせいですべきことができないと考え、なんとか症状それ自体をなくしたいという思いにこり固まっている。しかし、症状が出ていないか気にすることで、かえって症状に過剰に意識が向いてしまう。そしてこうした過剰な意識のせいで、症状それ自体が悪化したり、あるいは症状それ自体は大したことはなくても、いわば針小棒大の感覚にはまって大問題に思えてしまうという悪循環にはまるのである。そこで森田療法では、症状それ自体をあってはならない病的異常として異物視してなんとかそれをなくそうとしたりはせずに、赤面するならするがまま、視線が気になるならなるがままといったふうに、症状それ自体はそのまま受忍しながら、本来すべきことに取り組ませるという、ある種の作業療法的な体験を積ませる。すると患者は、さまざまな症状が出たとしても、実際にはそれなりにすべきことはできることが分かっていく。そしてこうした経験を積み重ねていくことで、患者たちは、依然として症状それ自体はあったとしてもそれにとらわれなくなり、とらわれなくなることで症状それ自体が消えたも同然、あるいは症状それ自体はあっても問題にならない、という境地に達する。こうして患者は「回復」するのである。森田療法のキーワードとしてしばしばとりあげられる「あるがまま」と「目的本位」とは、以上のような事態を指す。

引用元:社交不安障害の臨床社会学に向けて、2013、浜松学院大学研究論集

不安をあるがままにしておいた状態で、本来の現実的な欲求や目的にそって行動して、少しずつ不安を受け入れて改善していくという流れですが、そもそも不安に対処しないまま我慢して行動できないので取り組むのが非常に難しいです。

行動をする前にしっかりとカウンセリングで対話を重ねることが必要となります。

患者に自らが抱えている悩みや葛藤を日記として記録させ、その日記に医師がコメントをつけて返すという、いわゆる日記指導が重要な手続きになっているのである。また、こうした日記指導と並んで注目されるのは、森田療法では、早くから元患者や患者同士が自らの回復体験や悩みについて語り合う機会が積極的に導入され、さらにはそうした語らいのための集団、すなわち、現在でいう自助グループ的な集団も早い時期から形成され、活発に活動してきた点である。そして、日記や語らいの機会が重視されてきたのは、社交不安傾向と折り合いをつけるためには、素朴な経験的実感を積み重ねるだけでは不十分であり、そうした実感を資源としながら、自らのありようについての説明や了解を言語的に構築していく必要があると森田は考えていたからにほかならないだろう。

引用元:社交不安障害の臨床社会学に向けて、2013、浜松学院大学研究論集

日記指導や自助グループでの交流といった前提を抜きにあるがままだけを意識してやろうとするから、結局、あるがままにしようと思いつつもできないまま、できない自分を責めて悪化していくケースが増えているのではないかと思っています。

昔は入院させて何もできない状態にすることで人間の持つ本質的な欲求を呼び覚まして改善する入院治療が中心でしたが、近年は通院治療に変わってきており、日記をつけて指導する方法が一般的です。

催眠療法(ヒプノセラピー)

症状の原因が潜在意識にあるとして、催眠状態にして潜在意識を書き換えていく療法。

ヒーリング系の音楽を流しながら催眠状態に誘導していくところもあれば、音楽を流さずにおこなうところもあります。

他の療法と比較すると料金が高いのも特徴の一つです。

催眠で過去のトラウマを消してもらえたら治ると期待して受けに行った人の話をよく聞きます。

人によって催眠状態にならない人もいるため効果を感じないケースもしばしば。

お笑い芸人のツッコミ担当が催眠にかかりづらいと言われる通り、いろんな角度から物事を考え続けるような習慣がある人には向かないでしょう。

一定以上の度合いの対人恐怖症は症状へのこだわりが強くなっているため、催眠療法ではなかなか効果が出ずにやめてしまうこともよくあるようです。

症状のことばかり考える状態になっているから催眠に入りづらいのだと思います。

ちなみに、私自身も催眠療法を一度受けたことがありますが、効果はあまり感じませんでした。

来談者中心療法

来談者(クライエント)が自力で解決する力を持っていると信じて話を聴き続ける療法。

否定も肯定もせずただひたすらに話を聴くことで、クライエント自ら解決策に気付き動き出すのを待ちます。

傍から見れば単に話を聴いているだけのように見えますが、相手の話を否定も肯定もせずに聴き続けること、クライエント自らが解決する力を持っていると信じることは意外と難しく、来談者中心療法とうたっているところでも実はできていないことが多いです。

とくに大阪を中心とする関西圏では、おせっかいな性質を持つカウンセラーが多いため、本来クライエントを信じて待つべきところなのに、必要以上にアドバイスをして改善を妨げるケースが多いように感じます。

カウンセラーが自分の感情や価値観に左右されるとクライエントの話を否定したり、誘導したりしてしまうことも出てくるため、しっかりと教育分析を受けたカウンセラーでないと実践が難しいと言われています。

人が怖い状態を克服するために

自分を取り戻す

周りに合わせて自分を作ってきたから素の自分が受け入れてもらえると思えない。

本当の自分を知られたら嫌われるんじゃないか、離れていってしまうんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか…

さらに、バレるのを恐れてビクビクしていることまで隠そうとするから余計に人が怖くなってしまう。

「他人にどう思われるか、どう見られるか」ばかりに焦点を当ててきたことで自分が空洞化しているのです。

自分に中身があると思えれば隠す必要もないし怖がることもなくなる。

いかに隠す必要がない状態にするか、自分を取り戻すことが克服のポイントになります。

まずは日々の生活で「自分がどうしたいのか、どう思っているのか」を振り返って書き出してみてください。

そして、できる範囲から少しずつ自分がやりたいことをやっていきましょう。

一人で考えてみてもよくわからない場合はカウンセリングでサポートいたします。

自分の基準で自分を評価していく

人は「自分が自分にする評価」と「他人が自分にしてくれる評価」の2つで成り立っています。

両方の評価をあわせて100点になるような感じです。

自分が自分にする評価が10点の人は残りの90点を他人からの評価で埋めようとする。

だから、他人の目を気にして人と話すのが怖くなってしまう。

他人からの評価で自分の価値が決まるような感覚なので、「他人の目なんて気にするな」といくら言われても効果がありません。

改善するためには自分が自分にする評価を高めていくことが必要なのです。

まず自分の性質や状態を書き出してみる。

その上で「自分なりに頑張ったところ」を探してみましょう。

人と話すのが怖い状態でも挨拶ができたとか、面倒くさがりなのに今日は片づけができたとか。

どんな些細なことでも大丈夫、他人が頑張ったと思うかどうかは関係ありません。

積み重ねていけば自分が自分にする評価が高まっていきます。

自分の中にある影を受け入れる

良い人だと思っている相手でも信用しきれず、陰で自分の悪口を言っているんじゃないかと思ってしまう。

心理学に投影という言葉があって、自分の中にある影を相手に映し出すことを意味するのですが、まさにこれなんですよね。

「自分の中には攻撃的な性質はない」といくら思い込んでひた隠しにしていたとしても、相手がその影を映し出して怖いと思わせてくるわけです。

攻撃的な性質や汚い部分のない人間なんていません。

もしいるとすれば、それは人間ではないのです。

崇め奉られている歴史上の人物や著名人、有名人、どれだけ人から尊敬され人徳のある人間であったとしても、攻撃的な性質や汚い部分、影を持っています。

人が怖いと思うのは、自分自身に隠している影があるから。

ひた隠しにして目を背けているその影、つまり自分の中にある攻撃的な性質や汚い部分をカウンセリングで少しずつ受け入れられるようになれば、人と話すのが怖い気持ちはどんどん薄れていくのです。

客観視する力を養う

物事に対する考え方、捉え方と距離をとって自分で自由にコントロールできる力を養うことです。

認知が歪んだ状態で人とかかわっているから、できない自分を責めたり、相手にそう思われないようにしなければと必死になる。

さらにぎこちない行動や仕草になってしまうことで、相手に話しづらい印象や壁を感じさせてしまい、人間関係が上手くいかずに苦しみます。

だから、認知の歪みを修正して客観視する力を養うことが克服に有効なのです。

カウンセリングを受けて自分自身と向き合う中で自分を苦しめる考えに気付く。

無意識に潜んでいた思考が表面化することで変わり始めます。

今まで狭くなっていた視野が広がって、柔軟な考えができるようになるのです。

自分一人で認知行動療法のように書き出したり、他人の反応を検証したりする方法もありますが、気付くのが困難なだけでなく悪化する危険性があるという理由でお勧めしておりません。

コミュニケーション方法の改善

人が怖いと感じる原因の一つとして、コミュニケーションの取り方の問題があります。

自分を出して上手くいくコミュニケーション方法がわからない。

だから、周りに合わせて自分を隠すコミュニケーションしかできず、自分を受け入れてもらえた感覚が得られないままになっています。

カウンセリングで生まれ持った性質や特徴に気付き、本来の自分をベースにしたコミュニケーションが取れる状態にしていく。

人それぞれ自分に合ったコミュニケーションの取り方があり、どういう人とどれくらいの頻度でかかわりたいか等も全然違います。

世間一般で理想とされるコミュニケーション上手ではなく、自分にとってのコミュニケーション上手を目指していくのです。

相手の性格や状態、場面など様々な条件によってコミュニケーションの取り方は変化するため、場数を踏んでいろんなパターンを経験することが大切になります。

対人恐怖症の克服とは?

症状ではなく自分の気持ちを中心に動いていくことで生まれるエネルギーが、症状のもとになる不安や恐怖を抱えられるようになったときに対人恐怖症は克服できたと言えます。

つまり、社交不安障害から回復することとは、人に対して緊張したり恥ずかしがったりするといった、社交不安傾向自体が消えることなどではない。もし社交不安傾向をまったく抱えていない人がいたとしたら、その人はおそらく、より深刻な病理を抱えているというほかないだろう。社交不安障害からの回復には、もちろん、社交不安傾向がある程度以下に抑えられるようになることも重要だが、より重要なのは、社交不安傾向自体は依然としてある程度は抱えていながらも、それとうまく折り合えるようになることにほかならない。

引用元:社交不安障害の臨床社会学に向けて、2013、浜松学院大学研究論集

自分の気持ちを大切にする行動をとれるようになれば自分に軸ができてきますので、多少は他人の目を意識する部分があったとしても症状が出ることはありません。

不安や恐怖も大切な感情であり、自分を守ってくれるものです。

症状をなくそうとするということは、その大切な感情をなくそうとすることになってしまいます。

症状が出ているのは不安や恐怖が自分を守ってくれている状態。

自分の気持ちを中心にして生きられるようになれば、守ってもらわなくても大丈夫になるから人に対する怖さが消えていくのです。

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【参考文献】

内沼幸雄:対人恐怖、講談社現代新書、1990

森田正馬:対人恐怖の治し方、白揚社、2011

黒木俊英:こころの科学「2009年9月号」対人恐怖、日本評論社、2009

鴻上尚史:「空気」と「世間」、講談社現代新書、2009

西橋康介:対人恐怖症に本は効果がないと主張するカウンセラーがあえて書いた対人恐怖症の本、ギャラクシーブックス、2014