
「相手の目を見ようとするとどうしても睨んでしまうんです…だから、できるだけ目を合わさないようにしてるんですけど、ちゃんと目を見て話さないと失礼じゃないですか?どうすれば睨まずに目を合わせられるようになるのでしょうか?」
「相手の胸元を見てはいけないって思うのにどうしても見てしまうんです。頭ではわかっているのに止められません。どうすればいいのでしょうか?」
視線恐怖症の一種である自己視線恐怖症で悩んでいる方からよくこういった内容のご相談を受けます。
自己視線恐怖とは,特定の対人状況において自己の視線が異様な鋭さ,ないしは醜さを発し,それゆえに全面する他者を傷つけ不快にすると信じ悩む病態であり,鋭すぎる,きつすぎる,いやらしいなど自分の視線に対する悪しきイメージを抱き,その視線が他者に悪しき影響を与えてしまうことへの恐怖感を訴えるものである。そのため他者がなんらかの反応をしているという確信を抱きやすいという点で関係妄想性を帯びているのも特徴である。
人を睨んでしまう、不快な思いをさせてしまうと恐れるあまり、自分の意志で視線がコントロールできなくなっているのです。
強迫観念のような感覚になっていますので、他者視線恐怖症や正視恐怖症に比べて症状が重く、脇見恐怖症に該当する症状もあります。
見てはいけないと思うのに見てしまうメカニズム
自分の中にある攻撃性の抑圧
普段から良い人であろうとするあまり、自分の中にある怒りや嫌悪などの感情を抑圧。
周りに合わせてばかりで我慢をさせられていることへの怒りや屈辱感が自覚できないまま蓄積されています。
自己臭・自己視線恐怖の特徴を,現実の臭いや視線に対する他者反応を冷静に判断するための主体性消失,証拠もないところでの他者行動の悪意的解読の現象にあるとし,これは本人の”他者に対する強い敵意感”が顕在化したもので,自己主体性・他者との相互信頼感が強く歪んだ状態であるとしている。
本当は自分の中にあるはずの他者への攻撃性をないものとしているため、それが他人に映し出される現象が起こっているのです。
他人が自分に対して攻撃的な態度を取っていると思うから恐怖を感じて意識を向けざるを得なくなる。
どれだけ見ないようにしようと頑張っても、見ずにいられなくなるのは当然だと言えます。
自分が我慢して丸く収まるならいいと思っていませんか?感情の抑圧は自覚がないまま大きな問題を引き起こしています。
「見てはいけない」という意識
人間には「やってはいけない」と禁止されればされるほどやりたくなってしまう性質があります。
「決して開けないでください」と言われたはずの玉手箱を開けてしまった浦島太郎の話は有名ですよね。
これはカリギュラ効果、心理的リアクタンスとも呼ばれるものですが、脳の働きから考えれば当然と言えます。
そもそも人間の脳は禁止を認識することができません。
「郵便ポストを想像しないでください」と言われたらどうでしょう?
すでに郵便ポストが想像されてしまっていますよね。
「人を見てはいけない」というのは「人を見ろ」と同じ。
だから「見てはいけない」と思えば思うほど見てしまうわけです。
人を見てはいけないと思う背景には「他人に迷惑を掛けてはいけない」といった固定観念が影響しているところがあります。
視線への執着が本質的な問題を見えなくする
相手を見てはいけないのに見てしまう、不快感を与えて迷惑をかけてしまう…
自己視線恐怖症の人は、見てしまうことに対して強い罪悪感を抱えているため、どうすれば見ないようにできるかばかり考えています。
人とかかわるときも「自分の視線が不快ではないか」で頭がいっぱいになっていてまともに会話することができません。
まともに会話できない状態で人との関係を築けないのは当然なのですが、視線で相手に不快な思いをさせたから嫌われたと思い込む。
上手くいかないことがあるたび視線のせいだと思うから、何とかして症状をなくそうとばかり考えるようになります。
結果として、視線を気にしすぎて会話ができていないこと、相手を避けるような態度になっていること等の問題、その背景にある症状を生み出している問題がどんどん見えなくなっていくのです。
対人恐怖症で悩んでいる人が持つ症状をなくすことへの囚われ。どうすれば抜け出すことができるのかを書いています。
他人を見て不快な思いをさせてしまう症状を克服するために
感情の抑圧に気付く
人を見てしまう原因として感情の抑圧があるので、まずは自分が感情を抑え込んでいる事実を認識することが必要です。
感情の抑圧は大人になって急に始まるものではなく、幼少期の親子関係や学生時代(とくに小中学校くらい)の経験から習慣化されています。
- 親が感情を受け止めてくれず抑え込むしかなかった
- 家の事情を考えたとき感情を抑えて自分が我慢するしかなかった
- いじめに遭って学校生活を乗り切るために感情を抑圧するしかなかった
きっかけは人によって違いますが、感情を抑圧することで過去の大変な時期を乗り切っていたのは間違いありません。
当時の自分にとっては必要なものであったため、今も自分にとって必要なこととして感情を抑圧し続けているわけです。
カウンセリングを受けて自分自身と向き合うことで、自分が感情を抑圧していること、そして、感情の抑圧が自分にとってつらいという感覚が、少しずつ認識できるようになっていきます。
視線への囚われを解消する
悩んでいる期間が長ければ長いほど「見てはいけない」という考えが染み付いてるため、視線へのとらわれはものすごく強固になっています。
見てもいい理由を考えてみたり、見てしまっても大丈夫だと言い聞かせてみたり、わざと見て相手の反応を確認してみたり…
「見てはいけない」という考えに直接アプローチしてもほとんど効果はありません。
カウンセリングでは、視線以外の本当に大切なことに焦点が当たるようにアプローチをおこない、他人を見なくても大丈夫な安心感のある心理状態にしていきます。
実際の人とのかかわりで今まで抑え込んできた感情を表現できるようになり、人間関係を築いていけることを実感できたとき自己視線恐怖症は改善するのです。
自己視線恐怖症は自分では気付けない無意識レベルの問題が原因になっているので、自力で何とかしようと間違った方向で頑張る前にカウンセリングを受けていただければと思っております。